第2話「人材大募集祭り」

「ふむ……。サラ君よ……。我々に足りないものはなんだと思う……?」


20時を回ったオフィスで疲れきった顔をしたトーマスは弱々しい声でサラに問う。


「足りないもの……?そんなもの……

決まってるじゃないですか!!」ドンッ


サラは机を叩き怒りを顕にする。怒るエネルギーも無いほど疲弊してるはずなのに。


「決まってる……ね。何だろう。」


「人手ですよ人手!何でUPCPドイツ支部は私たち2人しかいないんですか!」


~UPCP~

unidentified

phenomenon

countermeasure

project


の略語。

直訳すると未確認現象対策プロジェクト。


例の熱帯での未確認生物での事件を口火に次々と起こる異常事態。その規模は都市伝説や噂の類で語られて終わる程安易なものではなく、世界各国のトップ達は必ず対策を取らねばならない程の案件にまでなった。

そして世間には秘密裏にこの案件を解決するために作られた組織がUPCPである。この組織は日頃、未確認現象が世界のどこかで起きてないかの監視、起きた時の処置、対策を行う。まだ出来て間もないため細かいルールなどは無く、志願するとある程度の実績、能力があればすんなりと加入できる。

アメリカ、イギリス、中国、ロシア、日本などの先進国には支部が設けられており、国で起きた未確認現象に素早く対応できるようになっている。


そしてトーマスとサラが所属しているドイツ支部のメンバーはこの2人のみだけなのだ。ドイツという国には何故か未確認現象の報告があまりないのだ。故に研究者や政治家はそれに興味を向けようとしない。志願する者がいないのだ。

トーマスとサラは元々UPCPに志願した訳では無いが、ドイツ政府から"念の為に"UPCPに所属せよとの指示があったため渋々配属されてるのだ。トーマスは生物学に詳しいため、未確認生物というワードのおかけで興味津々だが、サラはそうでもない。

サラは名門大学で上位の成績を誇る優等生だったが、夢や目標がなかった。自分のやりたい事を探し、様々なことに挑戦しているうちに何でもできるようになってしまった万能娘だったのだ。そんなサラには政府からUPCPに所属しないかという声がかかっていた。しかし、サラはUPCPにあまり興味がなかった。だが、同じく政府に声をかけられていたトーマスは誰よりも早く彼女の可能性に気づきUPCPに誘ったのだった。特にやりたい事もなかった彼女はあっさりと承諾してしまった。すぐ終わると思ってた。が、そんなことはなかった。


「トーマスさんんんん。助けてぇぇぇ。私過労でしぬぅぅぅう。」


「人はそんな簡単に死なないよサラ君。」


「なんで2人だけなのぉぉぉぉぉ。トーマスさんがもっと色んな人に声をかけていればもっと楽になったのにぃぃぃ。」


「皆、自分の仕事で忙しいし、何よりこんな一般には秘密裏にされている組織に入ろうとしてる人なんて……。」


「ああああああ。何で私あの時にOKしちゃったんだああああ。毎日毎日ドイツ中の監視と世界で起こっている問題の対策!監視だけならマシですよ。ドイツはまだ未確認現象が起こっていませんからね。でもね、UPCP本部に対策案をかなりの頻度で送らないといけないのは何故?」


「しょうがないだろ。ドイツ支部は暇なんだから。そういう厄介事押し付けられても文句は言えん。」


「その厄介事のせいで暇じゃなくなってるんですけどおおお!?」


「世界各国では様々な未確認現象が起きているんだ。我々も役に立たねば。それに人ならこの前神崎が入っただろ。」


「だってあの人、元がニートだから全くもって働きませんよ!?かと言ってこっちが誘っといて帰ってくれなぞ言えるわけないし。」


「神崎がドイツに来てからそろそろ一週間が経つかな。」


「トーマスさん……。ある計画を始動しましょう。」


「計画?」


「そうです。人材大募集祭りです。」


「大募集って……。おいおい、志願してくれる人なんかいないことなんて君も分かっているだろう。今さら募集したって……。」


「トーマスさん。私分かったんです。募集を待つのは受動的、能動的は己の足でスカウトすることなんですよ。」


「スカウトって……。誰をだい?ドイツの研究者たちは乗ってくれないと思うよ?」


「スカウトすべきは研究者ではありません。異能力者です。」


「異能力者?神崎みたいな人のことかい?」


「そうです。神崎さんは元がニートだったので働きませんが……。世界中では異能力に目覚めた人が増えてきています。その中にはその異能力によって今までの社会生活がままならない人もいるでしょう。その人たちの最後の滑り止めとなりたいんです。」


「ほぅ……。」


「トーマスさん!いいですよね!スカウトしまくりましょう!」


「いや、私は全く構わんのだが、今は誰を狙おうか検討が付いているのかい?」


「はい。まず狙うのはイタリアの警察官、コードネーム[ギル]です。」


「コードネーム?」


「はい。異能力者の中には平穏な日々を送りたい人、周りに迷惑をかけたくない人もいるでしょう。その人には無理に個人情報の開示して貰わなくてもいいようにこちら側が与えるコードネームでやり取りしてもらおうと考えたのです。」


「ほぅ……。いい配慮だね。」


「よし、なら早速行動開始ですよ!行くぞイタリア!待ってろギル!」


「ノリノリだね。」


サラは疲弊してる体で無理にモチベーションを上げているように見えなくもないが、サラにはこんなオフィスから出られる考えただけでもテンションが上がるのだ。




数日後、


トーマスと神崎に留守番を頼み、サラはイタリアのナポリへやってきた。書類に囲まれた匂いもしない、パソコンと睨めっこする必要もない、サラは久しぶりの自由を精一杯噛み締めた。




しかし、この街で今まで観測された事件を遥かに上回る程の未曾有の大事件が起こるなど、今はまだ、誰も知らない。

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