悪魔迷宮のメイズクリエイター4名

ちびまるフォイ

あなたの後ろにすぐ悪魔

「起きて、ねぇ、瞬、起きてよ!」


体を揺さぶられて目が覚めると、周りは迷路に囲まれていた。

そのうち、4つの道がある。

床には5冊のノートとボールペンが置かれていた。


「ここは……?」


「わかんないよ! 私も目が覚めたらここにいたの!」


俺と彼女のほかにも状況が飲み込めてない人間が3人いる。


「おい、これ見てみろよ!」


そのうちの一人がノートを開いた。


横線の引かれたありきたりな大学ノートには、

小学生のころ書いたような迷路が描かれていた。



『 迷宮に悪魔を閉じ込めよう! 』



開かれたページには書きかけの迷路と、悪魔のマークが移動している。


「誰が一体こんなの用意したんだ?」


ノートを持つ男は迷路に用意されているスタートとゴールをつないだ。

悪魔のマーカーはゴールへの道のりを見つけて、たどり着いた。



ビー! ビー!



"1体の悪魔が迷宮内に侵入しました! 現在2体。

迷宮にいるみなさんは速やかに避難してください!"


警報がなって、赤いランプが点滅した。


「おい! なにゴールさせてるんだよ!」

「知らなかったんだよ! ゴールさせたら悪魔が来るなんて!」


「ねぇ、争ってる場合じゃないって!」


彼女が他のノートを開くと、すでに悪魔が迷宮を進み始めていた。

迷路は途中までしか書かれていない。


書かれていない場所に到達されれば、ゴールにたどり着いてしまう。


「みんな! 迷路を描くんだ! 早く!!」


ボールペンを手に取り、慌てて迷路の増築を始めた。

より難しく、より時間がかかるように分岐させて迷わせるように。


「あは、あはははは!」


「なに笑ってるんだよ! お前も早く迷路を書き足せって!

 みんなのノートに1冊づつ悪魔がいるんだぞ!」


「お前らホントにバカだな? ようは閉じ込めればいいんだろ?」


メガネをかけた男は自分の名前が書かれたノートを手に取り、

すべての迷路の出入り口をふさいでしまった。


「はい、終了。これで悪魔は出られない。

 迷路を描き足すよりもずっと楽で確実だろ? 頭使えよ、頭を」


行き止まりしかない密室迷路が完成した。

男は勝ち誇ったようにノートを開いて見せた。


その後ろに、大きな影が迫っているのも気付いていなかった。


「ミツケタ」


「え?」


黒い悪魔は大きな手のひらを振り下ろすと、男を押しつぶした。

ひしゃげたメガネが血しぶきと一緒に飛んできた。


「に、逃げろぉぉ!!」


迷路の広場にいたみんなが蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

俺は彼女の手を引いて、すぐにみんなと別の場所に逃げる。


「瞬、怖いよ……」


「大丈夫、悪魔は別の分岐の道に行ったから。

 ここがどんな迷宮かわからないけど、こっちには来ないと思う……」


すぐに自分のノートを開いて悪魔の侵攻を確認する。


「もうこんなに進んでいるのか!?」


複雑な迷路を描いていると、悪魔に気付くのが送れるかもしれない。

さっきの男がやったように行き止まりしかない迷宮にするのが早い。


出入り口をふさいで悪魔を閉じ込めた。


「よし、これで俺のノートにいる悪魔は閉じ込めた。

 ゴールには絶対たどりつけない」


「待って! 瞬! 悪魔が……!」


彼女はノートの一点を指さしていた。

悪魔の位置情報を表示するマーカーが、

迷路にできたわずかな断線部分から迷路の外に出てしまっていた。


「隙間から外に出るなんてありかよ!?」


悪魔はゴールに向かって進んでいく。

慌てて悪魔マーカーの近くに迷路を描き足して悪魔を閉じ込めた。



ビー! ビー!



"1体の悪魔が迷宮内に侵入しました! 現在3体。。

迷宮にいるみなさんは速やかに避難してください!"


"1体の悪魔が迷宮内に侵入しました! 現在4体。

迷宮にいるみなさんは速やかに避難してください!"



「一気に2体も!? どうなってる!?」


「瞬、私はちゃんと悪魔閉じ込めてるよ! 私じゃないもん!」


「そ、それじゃ……」


最初に死んだメガネの男の持っていたノートにいる悪魔。

そして、別ルートに逃げていった男の悪魔。


その2体がゴールにたどり着いてしまったのだろう。


俺と彼女の悪魔が侵入してくれば合計5体。

そうなれば確実に追い詰められてしまう。


「くそ! あいつ、閉じ込めたって言ってたくせに!!


メガネの男の迷路にもどこかに隙間があったのかもしれない。

閉じ込めたと思っていてもどこかに抜け道があったのかもしれない。


めざとい悪魔は人間の小さなミスも見逃さない。



「ミツケタ」



後ろから声がした。

振り返る前に横っ飛びして、悪魔の初撃をなんとかかわした。


「こっちだ!!」


彼女の手を引いて迷宮をめちゃくちゃに逃げ回る。

幸いにもいくつも枝分かれしているので、悪魔をすぐに振り切れる。


「はぁっ、はぁっ……迷路書かないと!!

 これ以上、悪魔を迷路に入れたら、今度こそ終わりだ!」


ノートを開く。

幸いにもまだ俺のノートの悪魔は迷路で迷っていた。


早く描き足さないと。

焦れば焦るほど迷路に隙間ができてしまう。


正確に迷わせるような複雑な迷路を短時間で――


「あれ……!?」


ふと、自分の迷路を見て気になることを見つけた。


「瞬、どうしたの?」


「今、俺たちって、右に曲がって、左に曲がって、

 5つ分岐している場所を真ん中の道を選んだよな……?」


「うん。それがどうかしたの?」


ノートを何度も目で追って、それは確信に変わった。


「やっぱりだ! ここの迷路、俺が描いた迷路になってる!」


悪魔を閉じ込めるための迷路とまったく同じ構造に、自分たちは閉じ込められている。

迷路を複雑にすればするほどに脱出は困難になる。


「通りでノートには最初スタートとゴールが描かれていたんだ」


メガネの男のように迷路を封鎖してしまえばゴールへの道も閉ざされてしまう。

悪魔を迷わせつつ、自分たちは自分たちの迷路を突破しなきゃいけないんだ。


「それじゃ、私たちの描いた迷路の集合体が今閉じ込められている場所ってこと?」


「ああ、でもよかった。この道は俺が描いている迷路部分だから道がわかる。

 俺たちがいる場所からゴールまでの道を伸ばして脱出すれば終わりだ」


「瞬! うしろ!!」


彼女が叫んだ。このパターンはもう慣れている。


「行くぞ! 走れ!!」


追いつかれた悪魔を引き離すようにぐんぐん迷路を進んでいく。


「どっちに行けばいいの!?」


「この道を左だ! こっちの道はまだ書いていない!」


悪魔を振り切るために必要以上に分岐を増やして、曲がり角を多くする。

見通しがきかなければ見つかることもない。


「瞬! 分岐の先は書かなくていいの!?」


「必要ない! 時間が稼げれば十分だ!」


そして、ゴールにつながる道を俺のいる道に接続する。

分岐の一つに線を足して完全に封鎖し追って来れないように作り替えた。


「や、やった……ゴールだ……!!」


『げんじつ』と書かれたアーチがかけられている。


「瞬、本当にありがとう」


「いいんだよ。それに、彼女を守るのが彼氏の役目だろ」


「ううん。そうじゃないの」


「あ、そうだ。一応、お前の悪魔も閉じ込めておこうぜ」


俺は彼女の手からノートを受け取りページを開いた。

ノートには初期に書かれていた迷宮部分しかなく、わずかも描き足されていなかった。


いや、それよりも。


「悪魔が……悪魔のマーカーがない!?」


「そうだよ。私のノートには悪魔がいなかったの」


「そうだったのか……。というか、それなら先に言ってくれよ」


「ねぇ、瞬。考えてみて。私のノートに悪魔はいないのに、

 悪魔は5体もいると思う?」


1人のノートに1つの悪魔。

ただし、彼女のノートだけは悪魔がいなかった。


それじゃもう1匹は……。



「瞬、ここまで連れてきてくれて、本当にありがとう」



次に見たとき、彼女はもう彼女の姿をしていなかった。


薄れる意識の中でソレがゴールに向かっていくのが見えた。





ビー! ビー!



"1体の悪魔が現実に侵入しました!

現実にいるみなさんは速やかに避難してください!"

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