第42話 恋の走馬灯

許しだ。

断じて観念に逃げてはならぬ。

俺は俺の生きた人生から得たものを赤裸々に端的に告白せねばならない。

それがたとえ、クリスタルの先端のように鋭利で人の胸をえぐるものであったとしても。

感情の押し売りなんていらないし、思考の強盗もごめんこうむる。


人は、生の体験を欲している。


君を解脱させる最後の恋は、こんなにも華やかでかつ矮小で、かつ切実で、君を疲れさせるものであったとは。


もう十分に幻想は脱落しただろ。


人生の黄昏、最後の最後で、目にしたのは、


あらゆる幻想という名の悪に対する拒否であった。


拒否だけが真の受容を生み出すことができ、


あらゆる弱さに抗して、峻厳なモラルを打ち立てるのであった。


さまざまな観念が錯綜する中、観念のガラスはどれひとつとして、生にかすり傷ひとつつけることはできず、


ばらばらにくだかれて、散乱して、消え去るのみ。


僕たちの平成の恋は、こんなにも甘く軽やかで・・・


詩人たちの御伽噺からは遠く隔たって・・・


拒否できるのは強きものだけなのだ。


俺は全てを拒否しきった。


故郷に帰ってきた。


花は色とりどりに咲き乱れて、


いつしか梅の花は、かぐわしい香りを、わが春を告げてくれたのだった。


私はあらゆる怒りを置き去りにして、楽な気持ちで、


人生を祝福する。


もう、許してくれたかい?


私は女神に問うた。


女神とは全体、世界のことである。


私が微笑むと彼女も微笑んでくれた。


こんな深い縁による恋がいままであっただろうか。


拈華微笑。


私が寛ぐと、彼女も近づいてきた。


いま、川は海と融合せん。



少年と母は再びひとつとなった。


om aah hum

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