第19話 狂愛

今日は私の誕生日でした。

新年から彼女の罵倒を受けており、今日もこっぴどい罵倒を受けました。


それにもかかわらず心の平安を保てており、コンビニでかった200円のケーキを食べながら、我ながら成長したなと思いました。


今日で30歳になりました。


嗚呼!もう30か。


人生ってはかないな。


この前まで5歳だった記憶がある。


人生は長いようで短いなんてのは人生生きたことがない臆病者の考えだ。


人生はただただ短い。


ほんとに生きればただただ短い。


はかなき肩書きにしがみついた町のしがないピアニストは、才能の本当の意味を知らず、


寂れた発展途上国で、野心を燃やして革命家になった男は、一度も自分のうちに真の革命を起こしたことはない。


あんなに恋愛を美化していた文学青年も、実際に恋人と暮らすうちにその情熱も冷めていき、


派遣会社に勤めながら、ニートとホームレスを見下すしがないおっさんになった。


フルート吹きのあの子も母になっってしまって、もう音楽はしない。


奇跡の落葉よ。


そのまがまがしい宇宙を破壊する公式を啓示したまえ!


シヴァのダンス!


享楽の父の淫らに伸びた手は、彼の隣にいるウェイトレスのスカートの中に入った。


罪の味がした。


楕円体を描く、愛欲の放物線と交わる、冥府の、エレンガス。


観念を必要とするのは弱さだ。


弱いやつは観念を必要とする。


私は、すべての観念を落とした。


現実を生きてる。


自分で自分を生んだ。


楽しむこと。


それは、生き抜くこと。


最大の共感とともに、対象と自分を隔てずに。


歌を歌っていたら、深い愛ともに、瞑想状態に入っていった。


完全に独りだった。


愛の中で自我が解けて行って、えもいわぬ恍惚の世界にはいっていった。


この世界の最高のシェフが作った最高のチョコレートの、1000倍の甘さだった。


あの、死の恐怖に悩みぬいた若き青春に、すべてを手放したときの涅槃の安らぎと同じ味だった。


いや、そのときより灼熱の愛によって私の境地は高められている。


帰る家がなくなってしまった。


すべてが帰る家だった。


finale: 愛の方程式


すべての女には、あの原初の気ままで淫らな全能の母の影が落ちている。


暗黒の母によって引き起こされる際限なき恐怖が、官能の凍てつく波動である。


死にいたる極限のエロスのなかに、いかなる苛立ちもない。


客体に対していかなる主観も落ちたとき、主客身分空即是色の三昧がある。


そのとき、生きることは楽しく、生まれてきたことに幸福を感じ、頬を涙が伝う。


眼前に広がる、大自然、人間生活をありのままに感じており、悲哀と苦悩の終焉がある。


心が善悪の両者を切り捨てて愛に満ちたとき、聖者の安らぎという彼岸がある。


om aah hum


om vairochana om



精神の青空には、物質の海から解脱した、魂の太陽の、千の光線が咲き誇っていた。


私は自分で自分をコントロールするような生き方はやめたのだった。


自分のエゴのために詩をかくひきづられる人間なんかじゃなくて。


心のオナニーをしたことがない英雄。


自分に嘘をついたことない、善人と悪人両方にたたえられる英雄。


紫炎の黄昏に、私はため息をついた。 長く生きすぎたね。


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