第10話 ああ!幸福はあそこに。

もう逃げないって誓ったんだよ。


いや逃げることすらできないのだ。


幻想は死んだのだから。


死に際しては死ぬ力さえ失っているのだから。


蠍の一撃よ。


涅槃の匂いがする。


真っ暗闇だ。


すべてが死滅するあの魔的な輝きを持った切迫した暗闇。


悦楽に緩んだほそっりとくびれた彼女の腰


美は暗黒への最後の防衛だ。


緑色の薔薇なんかは馬鹿な詩人にまかせておけ


神の愛は、最も愛情深い母親の1000倍深い。


あの時は5歳、今は1000歳。


全体に抗って生きてきた。


しかし結局負けるのはわかっていた。


悟りとは、自我が消えることだ。


しかし誰が消えたがるだろう。みんな自我を強く固めたがっている。


トラウマの周りを旋回する欲動のマゾヒズム。


俺が山椒魚として川の中に生きてたころ、


毎晩顔を見せる月にため息を漏らした。


川魚ととして生まれたとき、山の絶景に、神を見た。


ついに、彼女は、脱魂状態に陥り、体を制御できなくなった。


愛のオーガズムの激しさに、激しくむせび泣いたりした。


落ちそうで落ちない雫。


涅槃の海を覗くと眩暈がする。


わが心臓に宿りし黄昏よ。


苦しかったな。


もうずいぶん歩いたな。


故郷が見える。


観念と現実が相克せず、二元性が落ち、


花の上に乗った宝石が花の色に染まるように、


客体だけが意識を閉める時、


悲哀と苦悩の終焉があり、


刻々として現実を観念に逃げず刻々と生きてる。


もう、自我は、虫歯が歯科医に削られるように、削りつくされていたのだった。


故郷の花園は色とりどりで満開で美しいのでした。





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