第2話 明日を探して

二人は真っ赤に染まる夕焼けをバックに、溶けるような接吻をした。


世界が終わっていくディストピアのなかで、全世界を抱ける。そう感じた。


彼女の見事な黒髪は、ああ、森のカモシカが見たら、あまりの美しさに恥じ入るだろう。


君の立った二つの瞳に写った世界は、唯一無二の美だったよ。


立ち並ぶ銀の高層ビル、夜空の満開の星達。 官能的なワイングラスに写った、一夜限りの二人の影。


罪作りなペニス。悪の花であるヴァギナ。


ううっ。優しさから僕を遠ざけてくれ。


気遣いという魔力から僕を遠ざけてくれ。


僕は、完全な安らぎを手に入れるために生まれてきたんだ。


覚えてる?


あなたは、昔とても女性的なハートを持ってる人だったわ。


そう、泉のほとりに咲いた怪しくも弱いあの一片の花びらのように。


vajiri vajirasattva sarvatathagata


そう、今の人生は、あのたった一つの愛の物語の回想。


彼女が愛の至福に脱魂状態になって、体を制御できなくなったあの夜の記憶。


私が愛だということは、断じて絶対だ。


この世のすべては、その絶対的真実の展開に過ぎない。


愛とは宇宙で最も弱い、しかし最も強い独裁者である。


愛のいかなる敵も、愛そのものによって溶かされて消え去るしかない。


厳しい愛の試練を乗り越えてきたので、プライドやエゴが無意味になりました。


至福に浸りながら、大地を転げまわる。


蔑まれた人たちと手をとって、「兄弟よ!」と呼びかけ、一緒に祝福のミサを受ける。


社会的地位も名誉もなく、ただ大地に二本の足で立っている。


私は詩人ではない。私が詩だ。


これはたった一つの愛の物語。


すべての愛はこのたった一つの愛の分身なんだよ。


同じように、すべての美は、たった一つの美の分身だ。


僕が君にささげた思いが、時間を生んだ。


その「時間」はいかなる有限の時間も越えた、絶対の主観的客観性の火の海であった。

すべてを食らう、漆黒の時であった。


私は、あなたの優しい心。


私は、無私の心で、電車に轢かれそうな少女を守った青年。


私は、満場喝采のなかで栄光を独り占めするスター。


私は、路上で空き缶を拾うホームレスの老人。


私は戦地で、子供を産み落とした若い母親。


私は、仏陀の説く空性を得し者。


私は一人の人を愛し続けた真の愛を知る名もない人。


私は、すべてだったのです。


私は、神 すべてを知りすべてを超越せし者。


私は、人間、女々しく弱いただのその辺の生き物。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る