第2話

崩れた瓦礫を手作業で、ひとつひとつどけていく作業員達。

その姿は屈強とは言い難く、ひょろ長く精々のっぽ、と表現するのが妥当だろうか。

とはいえ連日陽の下で作業しているのだろう、肌は浅黒く焼けているのが遠目に見て取れた。


「くそったれめ、なんで聖都勤務の兵士様が力仕事なんざせにゃならんの、だ!」


日焼けた男が瓦礫を後ろの男に渡しながら毒づいた。


「それもこれもあのくそったれたイシュウの所為だ!大賢者なんてうそぶきやがって、後始末は俺ら任せ!」

ついには瓦礫を足元に落とし

「そんで自分は夢ん中なんて、良い身分だぜ。ったくよー!!」


延々と続く作業に嫌気が刺し、兵士は瓦礫を蹴り上げた。


口には出さないが、皆同じことを思っているのは明白だった。

それを口に出さないのは・・・。


「なんだと貴様ーぁ!!いま、師匠の悪口をいったなぁ!!!」


遥か彼方から土埃をあげて突進してくる豆粒ほどの人影。

にも関わらずその声ははっきりと、淀みなく聞いてとれる。

兵士は青ざめながら苦笑いした。


「どういう耳と肺活量してんだ・・・あのアリシュナって嬢ちゃんは・・」


と言いながら剣を身構えるもの。


ズガァッ!!


目にも留まらぬ早業で飛び膝蹴りを顎に食らわせ、そのまま馬乗りになり兵士をタコ殴りにする。


「師匠がっ!!いなきゃっ!!この街どころかっ!!人間だって生きていられたかわからないってーのに!!」


ごきゃっごきゃっと鈍い音の乱打を見かねて近くの男が間に割って入った。


「もうやめとけ、アリシュナ。死んじまうぞ。回復魔法も蘇生魔法も使えねーんだ、それ位にしておけ。」


壮年の兵士に腕を掴まれ、アリシュナはやっと若い兵士を解放した。

顔を覆う手のひらからボタボタと血が垂れている。


「次に師匠をバカにしたら、殺してやるからなっ!!」


うっすら涙をにじませながらアリシュナは叫んだ。

一週間に三人はこうしてアリシュナの被害に遭う。

しかし愚痴りたくなるのも分からなくはない、と、壮年の兵士グランは思った。

確かに戦争には勝った。が、失ったものが多すぎるのだ。

人海戦術による死者は万を超えた。

それらを供養するのにまた何倍の人手が必要となり、破壊された年の復興には更に人手が必要となった。

火薬や、爆弾という今はほとんど廃れた手法で瓦礫を細くし、手作業で除去する手段がもう半年は続いている。

それでも先は見えない。

皆、うんざりしていた。

喉が渇いても水の魔法は使えず、暑くても風の魔法で涼しむこともできない。

これでは愚痴をこぼすな、という方が無理なのだ。

そう遠くない未来、人々の鬱憤は爆発するだろう。

そうなれば・・・・。




時と場所は変わり、賢者の塔。

聖都城に隣接されたその場所に、水晶に閉じ込められた様に眠る男。

大賢者イシュウである。

眠る、と表現はしたものの、寝ているのか起きているのか、生きているのか死んでいるのか定かではない。

だがアリシュナは毎晩この塔に登り、師匠の身体に異変がないかを調べていた。

この水晶は破壊できない。

少なくとも人の力では。

救い出すという名目で水晶を破壊しようと何人かの兵士が来た。

が、水晶にヒビひとついれることができなかった。

もちろんそれは名目であり、目的が術者の抹殺であることは如何に鈍いアリシュナにもわかっていた。

だが、そんな簡単に収まる術ならば、師匠は発動にあんなに躊躇ったりしない。

アリシュナにできるのは、塔の書斎を漁り、術を解く糸口を探すことだけだった。

イシュウは常々言っていた。


『世は表裏一体。必ず対になるものがある。』


ならば、必ず術を解く手段があるはずなのだ。

寝不足で赤くした目をこすりながら、うつらうつらと本をめくっていると、ふと背後に気配を感じた。

そこには壮年の兵士、グランが立っていた。

声をかけるより先に、アリシュナは異変に気付く。


「グラン・・・さん?」


グランは苦痛に滲んだ声色で、アリシュナに伝える。


「逃げろ・・・。」

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道化の外法《ザ・クラウン》 @amondemon

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