道化の外法《ザ・クラウン》
@amondemon
第1話
この世は表裏一体である。
光には陰。
太陽に月。
陸に海。
火に水。
あげればキリがない。
こんな切迫した状況でなければ、この大賢者、イシュウが嬉々と語ってくれたであろうに、状況はそれを許さなかった。
後に第二次魔大戦と呼ばれる人間と魔族の全面戦争は佳境に差し掛かっていたのだ。
聖都と呼ばれる人間側の首都には、もう間も無く魔族の火の手にかかる事になるだろう。
それは、空を舞う竜の群れ。
それは、血を揺るがす巨人の進撃。
それは、大地を血に染める魔獣達の牙。
それは、魔力を自在に使う悪魔達の軌跡。
不毛の大地でも生き延びる魔族達の生命力を、侮るべきでは無かった。
巨大な力を振るう事なく、ひっそりと生きていた者たちを排しようとした人間達は、文字通りその逆鱗に触れたのだ。
一体の魔族を倒すために必要な兵士が10人としよう。
では土煙を挙げて進軍をするあの何万という魔族達を打ち崩すには何人の兵士が必要か?
少なく見積もって10万ーー。
聖都の全戦力を集結させてもその半分が精々だ。
大賢者イシュウがその膨大な魔力を駆使したところで、戦況は変わらないだろう。
だからこそ、彼は禁忌の法に頼らざる終えなかった。
この世の理を捻じ曲げる、神に反する行為
だがイシュウに選択肢はなかった。
全てが手遅れになる前に、禁忌の法を発動させる必要があった。
「よく聞きなさいアリシュナ。私は一度この世界を破壊する。」
天空へと伸びる光の柱の中心で大賢者イシュウはけして出来がよいとはいえない一人の弟子、アリシュナに語りかける。
距離は幾分もあるのに、まるで耳元で語り語りかけられている様だった。
「お前は魔法の才がない。だからこそ、お前はこの事態にいち早く適応できる筈だ。私がこの法を行使すれば、世界は歪になる。だがそれはお前ならばーーー」
光は限度を知らぬかのように眩しさを増す。
閉じた瞼の裏ですら真っ白く染め上げる。
「発動せよ。外法
そして光は、四散した。
その行方は眩しすぎて誰にも終えなかった。
無理に目を開けば、その眼は灼かれ光を失っただろう。
異変はすぐに起きた。
空を舞う竜が、次々に地に堕ちーー。
魔獣は言葉を失い統率を崩しーー。
巨人は味方を踏み潰しーー。
悪魔はその魔力を行使できなくなっていた。
思考力、魔力、生命力、そのすべてを放棄する代わりに、すべての魔力を封印する禁術・道化の外法。
これで戦況は優勢になる筈・・・
あとは・・・まかせ・・・
薄れゆく意識の中、イシュウは願い。
そして・・・・
息をするだけの肉の塊と化した。
ーーーその日。世界から魔法が消えた。
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