98日目・99日目
終わった。句点をつけたとき、これで終わりだと確かに悟った。これでこの物語は完成したのだ、これがこの物語の終着点なんだ、と。
まずは自分で読んでみた。うん、やはり自分の描いた世界なのだから面白い。こんなに私が頑張ったのだ、他の誰かにも読んで欲しい。
しかし、私しかいないこの空間で誰が読んでくれるというのだろう。薄々気づいてはいた。だんだんあの地獄に戻りたいと思っているのだ。なんで?私はあそこで酷く傷つけられたのに、辛かったのに?
もう誰でもいいから私を見て私に気づいて私と一緒にいて一人はやだ一人はやだ一人はやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ。
救出者No.74 98日目
創作物完成、やがて発狂。自傷行動などにはしる。これ以上の適応は期待できないため、早急に針を要求する。
目が覚めた。痛い。身体中がじくじくと痛む。全身はかさぶたや痣だらけだ。早くここから出たい、もうなんでもいいからこの地獄から出してほしい。もうここは嫌だ、もう十分だ。何をしてでもここから出て誰かに会いたい。誰かと話したい。その先で何があったってもうどうだっていい。
気は進まないがいつものキッチンへ行く。いつものお盆の上には食事と一緒に見慣れない注射器があった。ラベルに何か書いてある。
『救済すら拒絶せんとする者よ。これは神からの最後の慈悲である。その身に突き立て、罰の中、神より賜りし命を自ら投げ出すことを深く懺悔せよ。さすれば外への扉は開かれん』
この地獄は神様が用意したものだと言いたいのか。ならば神様はどんなに無慈悲だろう。私を孤独にして、この地獄に閉じ込めたうえに、ここから出たいのならば死ねというのか。でも、ここから出られるならばなんだっていい。早くこんなところから出てしまおう。
私はなんの迷いもなく注射器を腕にさして注射した。不思議と痛みは感じなかった。
私はこれから死ぬ。そう分かっているのに怖くはない。私はあの時間から脱したかったのは確かだ。でも、いなくなるのは他でもない私。
だんだんと息が苦しくなってきた。体を起こしているのが辛くなり、部屋のベッドに横たわる。そういえばここにきた時もこのベッドで眠っていたか。
全身の痛みが強くなってきた、私は熱にうかされているのか。視界がぼやける。
ああ、みんなごめんなさい。私はここで一人いなくなります。本当にごめんなさい。ごめんなさい。
だんだんと自分が終わっていくのがわかる。だんだんと私の一部が機能停止していく。そのせいでまた不具合になり、連鎖して止まっていく。完全に止まるとき、まだ私に意識があるかもわからない。だから、ここでお別れだ。この世界とも、ほんの少しだけ私を助けてくれたこの部屋とも。
救出者No.74 99日目
発狂は一部鎮静。が、針を救出者自ら使用し、やがてラベルの文言に従ったのち死亡。対象者死亡につき、これにて記録を終了とする。
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