2日目

 寒さからゆっくりと目が覚める。昨日考え続けてそのまま寝ていたようだ。




 朝だ、また今日も学校に行かなくてはならない。耳元に新田たちの私を見下した笑い声が響く。重くなった足を無理やり動かし、慌てて準備をしようとリビングを出る。周囲を見渡し、ドアのない玄関を目にして思い出した。…そうだった、こんなところに閉じ込められているのだからここの外にある学校になんて行けるわけがないのだ。ましてや私は行方不明なんだ。行けたってパニックになるだけだし、あんなところ、行かなくていいならむしろ本望だ。




 裏を返してみれば、私はあの場所から、あの時間から解放されたんだ。いつの間にか、昨日からずっと頭の中をぐるぐる回っていたあの重くて苦しい何かが急に軽くなっていた。私は突然軽くなった足取りで再びリビングへと足を向けた。




 私は自由なんだ、ここから出ることはできない。でも、ここにいればもうあいつらの顔を見なくても、嫌な思いをさせられなくてもいい。ここは私の楽園だ。世間が私を探してたってどうでもいい。私はここで誰にも邪魔されずに生きていていいんだ。

 ああどうか、ここにいるのが見つかりませんように、助けると言って一方的にここから連れ出さないで。やっと手に入った私の平穏を奪わないでください。




 その日、私は何をするにも幸福感に包まれていた。食事をするのも、私の部屋にある、何度も読み返したはずの小説を読むときも。なんだかずっと新鮮な気分だ。

きっと私は、今までしたことのないような笑顔をしていただろう。心から笑えたのは何年振りなのかもわからない。






…まだ、ドン…ドン…と音は止まない。






救出者No.74 2日目

学校へ行く必要がないということへの気づきをトリガーに適応への道を進み出した模様。これより適応期間のカウントを開始。また、別の部屋より物音が入り込んでいるようなので、早急な対応を要求する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る