死闘6
頭よりも早く、レオンの身体はその執念に反応していた。
「何故、貴様は――」
レオンの強烈な拳が、またも大地の顔面を捉えた。
「そうやって、何度も俺の前に立つ! その貧弱さで、どうして俺に勝つつもりでいるっ!」
間髪いれずに、その長い足を大地目掛けて蹴り放った。
大地の両足が、意図も簡単に地面から離れる。
「この圧倒的な力の差を実感して、貴様の何処に勝機があると言うのだ!」
更に追撃の蹴足。瞬く間に距離が開いていく。
蹴り飛ばされた大地は、倉庫を支える鉄柱に激しく叩きつけられた。
「大地!」
鉄柱と衝突した際の衝撃音に、サラの叫び声がかき消された。同時に、煙と埃が舞い上がり、大地の周囲に纏う。
「貴様は……とうに限界を越えているのであろうが! これ以上は無駄な足掻きだと何故分からん!」
倉庫の中で、レオンの張り上げた声が反響する。感情を表に出す事に慣れていないせいなのか、レオンも肩で息をしていた。
「大地!」
「煩い! 騒ぐな!」
レオンが感情を混じらせた声をサラに向けた。
強者は分かっている。
今の攻撃で終わるほど、あの少年はもう、容易な相手ではないと。
直ぐに、
「下らん!」
拳を横になぎ払う。飛来したドラム缶を片手一つでいなす為だった。
缶が跳ねる。低く鈍い音が倉庫内に響いた。
間髪を入れず、同じ方向からドラム缶がレオンに迫る。
一投目と同じ軌道。最小の動きだけでレオンはまたしてもドラム缶を弾いた。
たかだが少しばかり大きなつぶて。そんなものが有効な相手であるかなんて、いくら小僧でも分かっている筈だ。
「なんのつもりだ小僧! こんな小細工でこの俺を倒せるとでも思っているのか!」
まだグールの力で掛かってくる方が、まだ勝機はあるというもの。
レオンの怒号に対する返事は、聞こえてこない。
その代わりに、錆びついたドラム缶が三度、レオンに向かって一直線に飛来する。
「無駄――」
言い終わる前に、
「!」
空中を飛んでいた筈のドラム缶が、加速する。
その後方。
「おおぁあぁあ!」
ドラム缶の死角に隠れていたせいで、レオンはその存在に気付くのが遅れる。
缶の影に隠れて、闘志を宿した眼が激しく燃え盛っている。
急激な加速は、投げ飛ばしたドラム缶を更に、殴り飛した為。
もともと戦闘経験の差なんて、少年には関係ない。
急激に加速した巨大な飛来物は、捌こうと体勢を作っていたレオンにタイミングをずらした形で衝突する。
「こ、ぞう――!」
この一撃が、決して崩れなかったレオンの脚が揺らがせた。
追撃は、止まらない。
「俺の限界を――」
――どんな力を持っても、俺に出来る事は、これしかねぇんだ――!
少女の声を力にして、少女との約束を糧にして。
一直線に駆け抜ける。握り込むは、左の拳。
体表に纏う黒い影が呼応するように、激しく蠢き、
「テメェが勝手に決めんじゃねえッ!」
文字通り、缶もろともぶん殴る。
「――ッ!」
ドラム缶がくの字に曲がり、中に詰められていた廃油が周囲に飛散する。衝撃は鉄の容器を突き抜け、レオンを貫いた。
渾身の一撃がやっと、強者に届いた瞬間だった。
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