死闘5
「…………」
地に伏せた月島大地は、ピクリとも動かない。
レオンはゆっくりと、掴んでいた頭から手を離した。
明らかに、致命傷と呼べる、とどめと呼べる深手を負わせた。セメントで固められた地面が抉れる程の衝撃が、それを証明している。
倒れている敵を、レオンは見下ろしている。勝者は誰が見ても一目瞭然。
その筈。
その筈なのに、
「……ッ!」
なのに、この手に滲む汗は何だ――ッ?
「大地!」
上空から、悲痛とも呼べる声が届く。義妹の声だ。
義妹のあんな声は、この空澄美を訪れるまで聞いた事はなかった。そのせいなのか、妙にその声は耳障りだ。
常に冷静沈着であった男の心情はいつの間にか、小さい波がかき乱している。
レオンは無言でサラを睨みつけた。
「っ!」
その酷く冷たい視線に、サラはビクリと肩を振るわせた。
だがそれでも、
「貴様も……なんだその眼は――」
「っ――!」
涙が溜まった瞳で、サラは必死にレオンを睨み返している。
「あいつは……大地は約束したんだから! 私を必ず助けてくれるって!」
「……その下らない事を吐く口を、今すぐ閉じろ!」
感情的に返してしまう。
その声は、酷く男の心を逆撫でする。
「そんなもの、叶えられると思うな! 貴様が交わした些末な約束は、本人もろとも、この俺が今、この手で潰したのだからな!」
「大地は、守れない約束なんかしない! 馬鹿で変態でデリカシーなんて無い奴だけど、私を向かえ入れてくれた! 家族だって言ってくれた! 貴方の口から出る事が無かった言葉を、あいつは当たり前のように言ってくれたんだから!」
「馬鹿者がっ! だからどうしたと言いうのだッ! お前もその目で見ていただろう! この現実を見ろ! 貴様がどんなに喚こうが、あの小僧はもう二度と――」
『二度と……なんだって?』
「ッ!」
……――違う、そうではない。
気付く。義妹の声が耳障りなどと、不快などと、そんな陳腐な理由で過剰に反応したのではない。
レオンの、戦う者としての本能が、潜在的に気付いていたのだ。
その必死な声に、無条件に反応する、
「……よう。パツキンオールバック野郎……」
幾ら死に体でも、その声で蘇る、
「勝手に終わった気になってんじゃ、ねえよ」
「小僧……!」
到底理解し得ない馬鹿が、ここに存在する事を。
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