死闘4

「そうか、ならば――」

「っ!」

 立ち上がったばかりの大地の前に、レオンは歩を進め接近する。

 両者の間合いはほんの少ししか開いていない。

 レオンは見下ろし、大地は睨むように見上げていた。

 間近で見なくても分かるほど、全身が傷を負っている。呼吸は酷い程浅く、肩で息をしている。レオンの拳を受けすぎて内臓もダメージを負っているのか、口の端から血が滴り落ちている。

 ――そんな醜態を晒す小僧なんかに、この俺が負ける要素など何処にある?

 ――このツキシマダイチという者が、どうやって俺に勝つと言うのだ?

 あり得ない。そんなものは分かりきっている。なのに何故か、そんな愚問が沸いてくる。

 理由は、既に分かっている。

「……………」

「……………」

 決して色褪せる事を見せない目。更にそれに呼応するように激しくうごめく、半身を覆った、酷く深い影。

 ――俺に向けるその目は、酷く不快だ。

「……その下らない『約束』は、決して守れぬものである事を、俺が証明してやるっ!」

 レオンは、瞬時に身体を捻った。その身に宿したグールの力に、更に回転で生まれた遠心力を乗せ、その足を放つ。



「くっそ!」

 大地は咄嗟に頭部との間に腕を入れ込む。

 跳ね上がったレオンの踵が、大地の腕ごと側頭部を抉った。

 閃光が走る。大地の視界の上下が反転する。

 地から足が離れている。自分の身体が上下逆さまになっていると気付いた時には、

「文字通り、地べたに叩き潰してやるっ、小僧!」

「が――!」

 頭を掴まれ、そのまま地面へと急降下する。

 明らかに形勢はレオンに傾いていた。

 このまま腕を振り下ろせば、全てが終わる。レオンは分かっている。

(こいつ、何故――)

 その筈、なのに。

 押さえつける指の隙間から、貫くような視線が消えない。

 ――お前にどれだけやられようが、俺は負けない!

 口に出した台詞ではない。その目が、そう言っている。

 この期に及んで、こいつはまだ、諦めていない。

(何故、ここまで――……)

 少年のその瞳は、窮地に追い込まれても尚、レオンの感情を乱す。

「その不快な目ごと、潰れてしまえ!」

 その苛立ちが、意識せずとも指に力を入れる。掴んだ頭部は、地面へ急降下する。

「だ――」

 サラの呼ぶ声が、間に合わない。

 大地の頭部を中心に、一瞬にして地面がクレーターの如ぐ大きく沈んだ。

「大地ぃ!」

 サラからはレオンの背中が邪魔をして、大地の姿を確認できない。

 少女の耳に届いたのは、形容しがたい程の鈍い音。それだけだった。

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