死闘3

 やはり、理解が出来ない。

 声も切れ切れ。支える身体は満身創痍。レオンの腕を掴んだその両手は、満足に力を入れられないのか、小刻みに震えている。

「……貴様、何故そうまでして私の前に立つ」

 レオンは掴まれた腕をほどいた。意図も簡単にレオンの腕は自由になる。同時に、払った勢いに身体が耐えられず、月島大地はぐらりとふらついていた。

 風が吹くだけでも倒れそうなほどに、弱い。グールの力を解放しようが、この圧倒的な実力の差を埋められる筈がないのに。

 今の貴様に、俺を倒す事など出来はしないのに――!

 そう確信している、にも拘わらず、

「何の目的があって、貴様は俺に敵対する!」

 向けられるその瞳の、光は衰えない。

 その問い掛けに対して聞こえてくるのは、月島大地の漏れるような呼吸の音だけ。

「一度その身が敗北を味わったにも拘わらず、ここまで食い下がる理由はなんなのだ!」

 貨物倉庫にレオンの怒号がこだました。

 レオンのその言葉に、返答の声は聞こえてこない。

「……」

 月島大地は立っているのがやっとの様子で、まるで霞みのようにふらふらと立っていた。レオンの声を聞いているのかいないのか、それすらも曖昧だ。

 レオンは敵の様子に構う事無く、続ける。

「約束、といったな、小僧。どうにか義妹を『カラスミ』の中に囲いたいようだな。やつの中に強大な力があると聞いて、更に目の色が変わったか!」

 合理的な理由がない。月島大地を理解できない理由はこれだ。感情ではなく、酷く客観的な判断しかできないレオンにとっては、この少年が立つ理由すら尚もわからない。

 サラを兵器として捉えれば、ここまで必死になるのは頷ける。カラスミの連中にとって、サラを取り入れられる事は嬉しい誤算なのだろう。

 レオンは自身が納得しうる理由を考え、そして気付けば、それを相手に問うていた。

「そうでなければ、ここに立つ理由なんぞ他にあるまい!」

 ……声を張り上げるぐらい、自身が感情的になっている事すら気付かずに。


 故に、

「オラァぁぁッ!」

「!」

 その隙を突かれる。

 相手の拳を捌く事すら出来ずに、その端正な顔にもろに貰い受けてしまう。

 足がふらつき、後退する。倒れはしないものの、レオンから驚きの色が隠せないでいた。

「き、貴様……!」

 殴りつけた側である月島大地も、身体を支えきれずに片膝を着いていた。ガクガクと笑う膝を押さえ込んでいる。

 月島大地は膝に手をつき、振り絞るようにまた、立ち上がる。

 芯が抜けたようにふらふらと揺れる身体。だが、その目はしっかりとこちらを、レオンという男に向けられている。

 大地は、レオンを真っ直ぐ見つめたまま、

「……だからだよ」

 短く、そう答えた。

「……何?」

呼吸もままならない状態でも、少年は吐き出す。

「分からないんなら、別にそれでもいい。……どっちにしたって、ここでテメーをぶっ倒して……アイツを連れて帰る事には変わらねー。何度も言うが――」

 ――なんだ、それは――!

「そう、約束したからな」

 ――理解できない。ここに立つ理由も、

 ――なんだ、その目は――!

 その真っ直ぐに向けられた目も。

 レオン=フローレンスの理解の範疇を越えている。

 唯一レオンが分かったのは、自身の感情のみ。

 月島大地という男の目がこちらにむけられると、酷く嫌悪に感じる。これもまた、何故そう感じるのか、理由が分からない。

 ――人の神経を逆撫でする、その眼差しを止めろ――。

 沸々と胸の奥から沸いた怒りが、自然と身体を動かしていた。

 冷静とは程遠い短絡的な感情が、本人も気付かずに身体を支配していた。

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