死闘

 大地は積み上げられたコンテナの一角を見据えていた。

 その視線の先には、奥が見えない程の煙が舞っている。

「ハア、ハア……」

 興奮しているせいか、息が上がっていた。

 レオンが構えた銃を退けた後、確かに自身の顔面に雷のように鋭い蹴りが当たった。

 その時咄嗟に思い出したのは、自分の渾身の一撃を無表情で受け止めた、レオンの姿だった。

 力の制御なんて知らない。だが、皮肉にも自分をボロボロにした張本人を頭に浮かべた途端、左手に宿る力が呼応した。

 この力なら……対等に戦える。

「――っし」

 初めて手ごたえのある一撃を入れられた。これなら、奴に勝てる。サラを取り戻せる。

「はぁ、はぁ」

 上がる息を落ち着かせる。

「す、すごい……」

 上空に捕らえられているサラは、そう言葉を漏らしていた。

「義兄さんを相手に圧してるなんて……」

 これまで一度も見た事が無かった、レオンの劣勢。自分が幾ら抗っても、その膝を地に着かせる事が出来なかったのに。

 膝どころか、あの壁のような体躯をまるまる、少年は投げとばしてみせた。

「これなら、本当に大地なら――」

 生まれる期待。だがそんな希望すらも摘み取るように、

「っ――!」

 サラの言葉が詰まる。

 改めて思い知らされる。そんなすんなり簡単に折れるような、容易な相手では無いと。

 大地が睨むその先で、ガタリと音が鳴った。

 漂う煙が緩やかに晴れてゆく。

 その中心に男は、レオンは立っていた。

「……」

 あれだけ綺麗だった白のスーツは埃にまみれ、ところどころが擦り切れていた。後ろに全てを流していた髪も乱れ、その眼は前髪で隠れている。

 そんなレオンの後方に、そこに隕石が落下したかのように大きく窪んだコンテナの外殻が映る。レオンが受けた衝撃は計り知れないものだと分かる。

 そして同時に、そんな衝撃を受けた後でも尚、平然と立ち上がっているレオン=フローレンスに脅威を感じてしまう。

「部分的に身体を強化……猿真似で私の蹴りを防ぐとはな。そんな細かな制御まで出来るのか……」

 レオンは垂れた前髪を全て掻き揚げる。

「好機は、二度もあると思うな」

「っ!」

 レオンの冷酷な闘志は、ほんの少しも消えていない――。

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