月明4

 月の明かりが照らす静寂な町の上を、屋根伝いに飛ぶ二つの影。

「……一体、大地は何処に向かったのでしょうか」

 牡丹が月に照らされた時雨の背中を追いながら呟いた。

「知っていれば、こうして私達が必死に探したりはしない」

 次の足場となる屋根に着地する。不機嫌な表情を浮かべて時雨は答えた。別に牡丹の問いが癇に障ったわけではない。馬鹿な少年が勝手に飛び出して、いまだに見つからない事に苛立たしさを感じていた。

 二人は直ぐに屋根を飛び跳ね、上空へとその身を置く。

 時雨と牡丹は、家を飛び出していった大地の行方を捜していた。

 流石に女子二人が寝巻き姿で夜中の街を駆け回るのはまずい。時雨と牡丹は急いで生闘会で義務付けられている所属学校の制服に着替えて、月明かりの下街の中を捜索した。

 だが、いまだに大地を見つける事が出来ていない。

「……反応はなしか」

 時雨は手首に巻いている紫石を見る。

 紫石に反応が無いか定期的に確認していた。万が一グール、もしくはグールに準ずる力の反応があれば、直ぐに紫石に光が灯るからだ。人体にグールの力を宿した大地の反応はあらかじめ記憶している。反応があれば直ぐに居場所を割り出す事が出来るのだが、今のところはそういった反応は見受けられない。もっとも、紫石が示した時点で、今考えうる最悪の状況に大地は陥っている筈だ。むしろ反応が無い事の方が望ましい。

 時雨と牡丹の、先が見えないこう着状態は続く。他に手がかりが無い以上、こうして地道に捜索を行うしかない事に、時雨も牡丹も、どこかもどかしさを感じていた。

「…………」

 当ての無い行方をどうやって追うか。ひたすら考えていた時、唐突に紫石が淡く灯りだした。

「!」

 紫石が反応を見せる。慌てて次の足場となるマンションの屋上で二人は止まる。

 紫石を通じて、この明滅が何に反応しているのかを時雨は感じとった。

(この反応は、大地……? だが、この反応はいつもと――)

 様子が違う。

 むしろ、グールそのものに近い反応に感じる。

 酷く暗い影の中に、かろうじて月島大地という存在が見え隠れする――。じわじわと不安が広がっていくような感覚。

 いや、今はそれよりも。紫石が反応してしまった事だ。間違いなく、大地は最悪の状況に直面している証拠だ。

 一度その身を抉られた狂気に、月島大地は再び直面している。

「会長!」紫石を見て固まったままだった時雨が、ハッと牡丹の声で我に変えった。

「急ぎましょう! 事態は一刻を争います」

 大地の中にあるグールの力が反応しているという事は、相応の、いやそれ以上の力を持った相手と対峙しているという事。

 その相手は間違いなく、あの男だ。

 二度も、仲間を危険な目に合わせるわけにはいかない。

 時雨に纏う空気が冷やかなものに変わった。直ぐに反応の所在を特定する。

「場所は、空澄美港だ――」

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