胸中
サラにとってそれからの三日間は、驚くほど早く、驚くほど穏やかなものだった。
今までと少し異なる事と言えば、ぶっきらぼうな少年の声が一切聞こえない事だ。大地は未だ意識を取り戻していない。
いつ目覚めるか分からない大地を看る為、時雨と牡丹はほぼ家に入り浸っていた。
サラは学校に行かなくていいのかと尋ねたが、「そんなものは今優先するべき事にすら入らない」と時雨に返された。牡丹も同じ考えのようだった。二人とも、真剣に大地の事を心配している様子が見てとれた。
恐らくそれだけではないのだろうと、サラは分かっている。
自分を狙う義兄が、まだこの町に潜んでいる。いつここが知られてもおかしくない。
大地が立ち上がれない今、サラを守るのは自分達だ。直接言われなくても、二人の顔にそう書いてあった。サラが既に義兄と逢っている事も知らずに。
二人は、大地が一人でほぼこなしていた家事を分担しつつ、大地の看病にあたっていた。特に牡丹の活躍は、以前に大地が漏らしていた通りで、料理は酷く独創的な味を編み出すわ、洗濯機から大量の泡を生成させるわで余計な手間も増やしていたが、人並みにこなす時雨がいるおかげもあり、なんとかこの三日間は、無事に平穏を迎えられている。
どれだけお人好しな連中なのよ。サラは呆れていた。この二人も大地と同じで、芯の部分では馬鹿なのかもしれない、と。
そして、自分自身にも呆れていた。そんな二人の、いや三人の純粋な想いをその身に感じて、心地いいと感じてしまっている事に。
呆れていたと言うよりもむしろ、羨んでいたのかも知れない。
少女にとってこんな穏やかな日常は、時間はもう、二度と来ないのだから。
義兄は妙なところで愚直だ。自身が言った事は、その公言通りに守る。
レオンは三日間の猶予をサラに与えた。義兄の言う事を信じる訳ではないが、その性格上、その三日間は手を出してはこない。それが分かっていたから、事情を知らない時雨や牡丹よりも、サラは落ち着いた様子で過ごしていた。
だが逆に、「約束」の三日間が過ぎれば……。それも、長い間義兄を見てきた妹は、知っている。あの男は有言実行以外の事はしない。
これ以上、大事な人たちを傷つけさせない。
だから、私は――……。
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