雨中
どれぐらいの時間、立ち上がることも顔を上げることもせず、無言で雨に打たれていたのだろう。
既にレオンの姿は消えていた。この通りにいるのは、ずぶ濡れの自分ただ一人。
不思議と涙は流れなかった。あれだけ酷い仕打ちを受けたにも関わらず、涙腺が緩むことはなかった。理由はわかっている。
自分が認めてしまったからだ。否定できなかったからだ。自分があの少年達とは決定的に違うということを。自分という存在のせいで、少年を傷つけてしまったということを。
涙を流す資格なんてない。
結局のところ、自分で撒いた種だった。
サラはそう結論付ける。そして、その結論から、決して正しいとはいえない選択をしてしまった。
そういうことならば、自分が選択すべき答えは一つしかない、と。
上手く回らない頭でも分かる、簡単すぎる答えだった。考える時間なんて必要なかった。止まない雨の中、一人で決断してしまう。
悔しさのみが残る選択だった。
「……だから、フェアやない言うたんや」
傘も何も持たないで、重い足取りで通りを歩いてゆく少女を見下ろしながら、呟いた。
先程まで起きた出来事を終始、建物の屋上から眺めていた東雲仙石は、レオンに居場所を教えたことを少しばかり後悔していた。そんな千石の手には傘が握られており、この雨から身体をしっかりと守っている。
少々気になってレオンの行動を遠巻に監視していた結果が、これだった。元々は、少女が生きていると伝えるだけで、あの男にここまで肩入れするつもりはなかった。
「いらん事首つっこむんやなかったなぁ。けど、旦那の組織はお得意さんやしなぁ……」
楽観視し過ぎていたことを反省する。別にサラという少女が可哀想だと思ったわけではない。己はあくまで中立の存在である事を考えると、今のこの状況は、決して放っておけるものではなかった。
――その上、つい先程、その組織から伝言を受けた。出来れば単独行動をしているレオンを、どうにかして欲しいと。お得意様のお願いは無下には扱えない。
ふむ、と。仙石は考える。
このままでは、今まで積み上げてきた「東雲仙石」というブランドに、傷がついてしまう。
別に誰かから咎められるわけではないが、自分自身がそれを許すことが出来ない。 客の頼みを聞き入れるのは簡単だが、それだと、今まで貫いてきた「中立」という立場を、千石自ら捨てる事になる。
一方に肩入れした今の状態をフラットにするには、どうすればいいか。己が納得出来、さらに上手く事態を収拾できるように、自分がどういった判断を取る必要があるか……。
「……旦那。悪く思わんといてくれな? これもワイなりの責任の取り方やねん」
自分がすべき事を決めた仙石は、今しばらく様子を見ることを決めた。責任を果たす時は、このときではない。まだもう少し後。
通りに雨が降るさまをしばらく眺めた仙石は、スッと、屋上の影から姿を消した。
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