対決4
「減らず口が」
レオンはスーツの上着を翻した。裏地には多くの黒い銃弾が規則正しく並んでいる。
先程放った銃弾一発分を、慣れた手つきでシリンダーに装填する。
レオンは拳銃を一指し指を中心にクルクルと回転させた。ピタリと止めたその銃口は、真っ直ぐと大地に向けられる。
「貴様に『本物』というものを教えてやる」
自信に満ちた男の所作一つ一つに、強者の気配が見え隠れする。
「……」
大地は深く息を吸った。
頭を振り、目の前の敵を見据える。そう。この場でしなければいけないことは……
この男をこれ以上、家で待つ少女に近づけさせないこと。
強者だろうが冷徹だろうが、恐かろうが目つきが鋭かろうがグールの力を弾丸変えようが、そんなことは関係ない。
サラの笑顔を奪ったのは紛れもなく、こいつだ。
そんな奴を、サラに会わせるわけにはいかない。
長く息を吐く。もうゴチャゴチャ考えるのは止めた。――全力で、倒す。
自己暗示にも似た気合。あの眼にもう、恐怖なんか感じねぇ。。
轟! と。
二人の間に線を引くように、細長い鉄骨が炎を纏いながら勢いよく倒れ落ちた。両者の目の前に、炎の壁が立ちはだかる。
気付けば、工場内は火の色一色に染まっていた。
「最後の問いだ。話す気になったか? 愚妹の居場所を」
「知らねーって言ってるだろ。しつこいお兄ちゃんは妹に嫌われるぞ。っても、既にあんたは嫌われているけどな」
「自覚はしている」
会話の流れの一つであるかのように、レオンは一つの銃弾を飛ばした。
「ッ!」
頭一つ分を動かし、ギリギリで大地は躱す。
グールの力を宿した今なら、避けるくらいは造作もない。
「んなもの、当たらなきゃ意味はねんだよっ!」
直ぐに次の動作に移る。脚に力を込め、敵意の先にいる男へと駆ける。
「野を駆ける猪でも多少は考えるぞ」
間髪を入れずに二発目の漆黒の鉛が迫る。
大地は横っ飛びに避ける。ゴロゴロと地を転がる。勢いそのままに体勢を立て直し、更に接近する。
レオンの所まであと少し。互いに一足飛びで拳が届く射程圏内。
「おぉぉおっ!」
大地は左の拳に力を込め、踏み込む。両の脚が地を離れる。
大地の気迫がレオンを捉える。だが、目の前の男は顔色一つ変えない。
レオンは一言。
「耐えられるか?」
三発目の、漆黒の弾が銃口から放たれた。
弾は大地にではなく、下方に向かって飛来する。
弾丸が地に触れた瞬間、
「っぐ!」
地面が抉れ、コンクリートの残骸が散弾銃のように目の前に飛び散った。
大地の勢いは瓦礫の壁に完全に殺される。身体が自然と後退する。
「このっ……!」
無数のつぶてが視界を奪う。反射的に目が細くなる。
重力に従い、パラパラと瓦礫が落下していく中、
「いな――」
その先にいた筈の、男の姿が無い。
「貴様に息つく程の暇があるのか?」
「しまっ……!」
真横から、
「遅い」
白いスラックスから伸びた足が、大地の脇腹を抉った。
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