対決3

「この状態になった俺を、簡単に仕留められると思うなよ? この腕に感化されて、今は紫石を持った牡丹並みに、身体能力は向上しているからな」

 強気に相手を威圧する。

 黒い影が左腕の中で蠢く。この能力を覚醒させると、異様な興奮状態になり、気持ちが落ち着かなくなって酷く疲れるが、今回ばかりは幸を奏した。意識せずとも、身体の震えは止まった。

 奥の手を見せた大地に対し、レオンはこの時初めて、驚いた表情を見せた。

「貴様……適合者なのか……?」

「あ? 一体何のことだ?」

 いきなり意味不明な質問をされたかと思うと、さらに、

「その腕、どうやって手に入れた?」

 意図が汲めない質問をぶつける。

「手に入れた? 知らねーよ。前にグールに襲われた時、気付いたらこうなっていたんだよ。ったく、自分の人生ながら面倒ごとが多くていけねぇ」

 大地が面白くないという表情でこの腕の経緯を語った途端、

「フ、フフフハハハハハ」

 レオンが唐突もなく突然笑声をあげた。

「なんだ……?」

 最初はこの腕を見て気が狂ったのかと思った。自分でも、この腕の禍々しい模様は少々気味が悪いと思っているくらいだ。

 しかし、直ぐに違うと判断する。あの碧い眼は迫力を失っていない。むしろさらに研ぎ澄まされている。

「《アウター》か! 成る程! グールの力を制御する者は我々だけではないらしいな! やはり警戒すべき相手だ。尚のこと、奴をこの地に置いておけん!」

 拳銃のシリンダーを開き、詰められていた弾をその場に捨てた。レオンの足元に銅色の銃弾が転々と散らばる。

 何のつもりだ……?

 今度は大地の方が、相手の行動に理解できないでいた。

 銃弾を捨てたと思いきや、今度はスーツの中から、シリンダーの穴の数だけの銃弾を取り出した。同じ銃弾だが、先程捨てたものとは明らかに違う。

 取り出したその色は、漆黒。

「小僧、ではこれも知っているだろう? グールを殺す時は専用の武器が必要だが、それ以外にも一つだけ、方法があると言うことを」

「なに?」

 レオンは丁寧に銃弾をセットしていく。全ての弾が詰め終り、シリンダーを締めると、その銃口を上げ、狙いを定める。

「グールの力を以ってして、グールを殺す。という方法だ」

 発砲音。

 撃鉄に叩き付けられた漆黒の弾丸は、寸分も狂う事無く大地の左の掌に迫る。

「何度やっても同じだっ!」

 グールの力は常人の比ではない。左腕のみという歪な形ではあるものの、黒い怪物の力が宿った今の大地の身体能力を以てすれば、迫る銃弾ですら、その目で追う事が出来る。

 たかが鉛玉くらい、脅威にも感じない。

 そのまま手を払い、弾丸をいなして攻勢に出るつもりだった。だが――

「馬鹿が」

 金髪の男は、不敵な笑みを浮かべたままだ。

 弾丸が手に触れた瞬間、

「がぁっ!?]

 打ち負け、弾かれる。左腕が大きく仰け反る。

 目に映っていた景観が反転する。

 衝撃に耐え切れず、左腕ごと身体が引っ張られた。二転、三転と後退する。

「いっ……てぇっ――!」

 鋭い槍で貫かれたような痛みを感じた。起き上がり、左腕を確認する。

 深淵のような黒い模様は蠢いたまま。どうやら腕は吹き飛ばされてはいないが、左腕のみが持っていかれたせいで、肩にもダメージが残っている。

 拳を開き、また握る。動く。まだ左腕は使える。

「さすがに、アウターの腕を四散させる事は出来なかったか。改良の余地があるものの、幾分かの効果はあるようだな」

 レオンは冷静な目を向けて、言った。

 グールの能力に対抗してきたあの弾。どう考えてもただの鉛玉ではない。

「てめぇ、今のは……」

「貴様が今想像している通りだ、小僧。グールの力を宿した特注の弾丸だ。その効果は、身を以って受けた貴様の方が分かるだろう」

「っ……」

 実際に受けて分かった。あの黒い弾は、ただグールの力に対抗できるというものではない。

 振れた瞬間、大地を身体ごと吹き飛ばす程の衝撃が加わった。

 足りない頭でも分かる。あれは、あの弾には、グールの能力そのものが凝縮されている。

「なんつーもんを作ってんだよ。こんな危ねぇもん、一体何に使うつもりだ」

「貴様の様な、何も知らずに力を持った者を駆逐する為というのも、理由の一つだ」

 レオンは再び拳銃の撃鉄を起こし、その銃口を大地の左腕に向けた。

「馬鹿の貴様でも分かるだろう。能力を宿したその左腕で受けてもあの威力だ」

 向けられた銃口はやや向きを変えた。その延長線上には、大地の右腕。

「例えば、その右腕に当たれば、どうなるのだろうな?」

 レオンの問いに、大地は無言で睨み返すしかなかった。

 分かっている。当たれば、身体に風穴が空くどころの話ではない。

「えげつない事考える兄貴だな。こりゃ妹が愛想つかすのも納得だな」

 言うものの、その表情は意識せずとも硬くなる。

 分かっているのだ。それでも、ここでこの男を止めないと、家で帰りを待っている者に顔向けできない事も。

「もう一度言う。やれるもんならやってみろ。必ずテメェのムカつく顔面に一発ぶち込んでやるっ」

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