暗雲3

 生徒会室で一人、時雨は机の上に置かれた書類に目を通していた。部活動の活動報告と部費申請に関する書類だ。

本来の生徒会としての雑務だ。面倒な仕事ではあるものの、時雨は黙々と書類の中身を見ては「処理済」と書かれた箱に投げていく。

「会長、お茶が入りました」

 隣の給湯室から戻ってきた牡丹が言った。その手には湯気が漂う湯のみを乗せたお盆を携えている。

「ああ。では少し休憩しよう」

 言いながら、手に持った書類を手放した。背伸びをして椅子から立ち上がろうとしたその時、

「っ!」

 その細い手首に巻かれた紫石が、怪しく明滅する。

 グールが現れた合図だ。

「牡丹」

「はいっ」

 牡丹は呼ばれる前に既に行動していた。壁に立てかけられたロール状の地図をテーブルの上に広げる。

 時雨はテーブルの前に立つと、腕から取り外した紫石を地図の上に垂らした。

 ゆっくりと紫石を動かす。動かすたびに紫石の明滅は激しくなったり、弱まったりを繰り返した。グール探索に特化したダウジングだ。

 グールが町に現れると、探索用の紫石が反応する仕組みとなっている。その後こうして詳細な位置を探る。特定し、その位置が担当区域内であれば、生闘会を派遣し、討伐する。

 紫石は点滅から常時点灯へと変わる。グールの位置が特定された証拠だ。今回の場所は、

「……かなり南になりますね」

「担当区域のほぼ境界だな」

「では大地と現場に……って、そういえば大地は今日どうしたのでしょうか?」

「用事があると言っていたのでな。今日は直ぐに帰らせた。大地には申し訳ないが、現場に向かって――」

 言いかけたところで、二人の会話が止まった。

「……」

 時雨が注目していたのは、自身の紫石だ。先程までの光が急に消失した。

 ダウジング中の紫石は、グールが発する独特な気の流れを読み取り、それが光として反応を見せる。位置が特定されたグールは、討伐するまで光の明滅は消えない筈だ。

 しかし、その認識であった筈の紫石は突如として、その光を失った。

(一体、何が……)

 考える間もなく、今度は、

「か、会長!」

「っ!」

 ガタガタと、紫石が明滅どころか激しく揺れ動く。

 どうなっている……!?

 激しい揺れは数秒程続くと、電池が切れたかのように静かになる。

 こんな事態は初めてだ。考えるが、紫石の様子だけでは何かが起こっているのか分からない。

「……とにかく、動くぞ」

 時雨は言いながら、携帯電話の通話ボタンを押した。

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