暗雲2
空が澄んだように美しい。空澄美町の名前の由来なんてそんな簡単なものだった。では雨の日は名前と矛盾しているではないかと思うかもしれないが、そんなことを気にする住民は一人もいない。
名前とは正反対に、突然の暗雲が立ち込めた空澄美町の空に、常識では考えられないくらいの大きさをしている鳥が、その眼を真っ赤に光らせながら、一定の場所で羽ばたきながら停滞していた。
だがそれは、鳥ではなく、グール。そしてさらに、その背中には、人が一人、立っていた。
「何度訪れても、やはり居心地の悪い町だ」
レオンは、下に広がる町並みを眺めながらがらそう呟いた。以前は気づかなかったが、町の名を知った後に再びこの目で見てみると、確かに感じる。
この町に渦巻く、邪悪な気が紛れている事を。
妹の生存しているという報告を受けてから、レオンは自身が生み出したこの鳥型のグールに乗ってここまで飛んできた。高速飛行に特化したグールを以ってすれば、地球半周程の距離を、半日足らずで移動するなど容易い。もっとも、その高速飛行に耐えうる肉体があってこその手段ではあるが。
「さて、我が妹は一体どこに息を潜めている……?」
なかなかに広い町だ。しらみ潰しに捜すのは得策ではない。ではどうするか……レオンは妹を連れ帰るために有効な手段を考える。
そういえばと、使いのグールを飛ばした男が言っていたことを思い出した。
アンタの妹さん達の周りには、ななかなかに牙の鋭い犬っコロたちがいる――。
今もその者達の近くにいるのなら、妹自体を捜すより、妹を取り巻く者達を探したほうがいいのではないか?
少し遠回りな気もするが、この方がより確実だ。では、その犬共を探し出すにはどうすればいいのか。さらにレオンは考える。
その時、わずかな気配を感じた。再び、下に広がる町を見下ろす。
人ではない異様な気配……どうやらグールが出現したということに気付く。酷く顔を顰める。
「さすが我々が目的に定めた町だ。こうも簡単にグールが出現するとは」
スッと、白のスーツの内側から拳銃に触れて、その感触を確かめる。
「まあいい、肩慣らしついでだ」
パチンと、弾けるように指を鳴らした。
それを合図に、停滞していた鳥型のグールは、レオンを乗せたまま、町の中へと急降下していく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます