元老院2
「では、私はこれで……」
用件も済み、時雨が部屋を後にしようと京子に背を向ける。
「……あなた、生闘会に入ってから、随分と逞しくなったわね」
京子が時雨の背中に向けて言った。時雨の足は止まった。
「そうでしょうか? 自分では何がどう変わったのかは分からないものですね」
「生闘会で培った経験も、あなたの思い描く『先』に必要なもの……なの?」
その言葉に反応したのが、ビクリと肩を揺らした仕草で明らかだった。
直ぐに時雨は「どうでしょうか」と会話を濁す。
「別に『今の』あなたの行動をとやかく言うつもりはないわ。生闘会としての活躍も、頭一つ抜けて目を見張るものがあるし。ただし……」
時雨を見る日野京子の目が鋭くなる。
「ただし、あなたが『条院』の敵になるような事があれば、私はあなたに刃を向ける事になるわ」
その目は一切揺れる事無く、真っ直ぐにこちらに向けられている。口にした言葉は本心である証拠だ。
「私は、そんな事はしたくない」
この台詞も嘘でない事を分かっている。
「仮にもあなたは私の上司だ。そんな事は言われなくても知っています」
「本当に、わかっているの? 色条院は今――」
「ええ、わかっています。だから私は今、生闘会(ここ)にいる」
遮るように時雨は言った。
「時雨ちゃん……」
止めていた歩みを再開する。部屋の扉が閉まるまで、時雨は京子の視線を背中に感じていた。
廊下の端にあるエレベーターのボタンを押す。扉は直ぐに開いた。
乗り込み、一階のボタンを押した。扉が閉まると、時雨を乗せた箱は一階へと降下してゆく。
「……はぁ」
ガラにもなく、時雨は乱暴に頭を掻いた。自分でも驚くほどにイラついている事に気付いた。
「わかっているさ」
自分に言い聞かせるように、そう呟いた。階数表示の数字が下がると共に、時雨も冷静さを取り戻してゆく。
エレベーターが一階に近づく頃には、いつもの落ち着きを取り戻した時雨の姿がそこにはあった。そうだ、と思いついたように、
「サラの様子も気になるし、大地の手料理でも食べに行くか」
ほんの少しの笑みを浮かべながら、時雨はエレベーターを降りた。
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