第47話 同好会の活動

 某日、学校の同好会室にて。

 マコちゃんが頑張って作っていた会則と会訓の素案ができたため、会議をすることになった。


 会室のソファーにわたしとマコちゃん、沙織とカオル君が向かい合って座っている。

 尾崎先生はベッドで就寝中。

 尾崎先生は運動部と兼務していて、なんとその部は地区大会常勝の柔道部。

 それで尾崎先生は、柔道五段なんだって。

 そんな先生がなんでこんなところで寝ているの? と思いつつ、いびきをかいているわけでもないし放っておく。

 そして満を持したという面持ちのマコちゃんから、プリントが配られた。


―――― 湊百合の会 ――――


【会則】

 第一条 本会は『湊百合の会』と称する。


 第二条 本会は校内における『女生徒の健全な成長と交流を育む活動』を目的とす

     る。


 第三条 本会は第二条の目的を達成するために、次の活動を行う。

     ⑴女生徒が勉学において疑問を抱く時、その講義活動及び個別指導

     ⑵女生徒が運動において悩みを抱える時、そのティーチング及びコーチン

      グ

     ⑶女生徒が恋愛において身を焦がす時、そのカウンセリング及び助言

     ⑷女生徒が女子力の向上を目指す時、その教示及び支援

     ⑸その他、女生徒の疑問及び悩みの援助


 第四条 第三条の活動を行う前に、全会員により実施の可否を選別し会長が決定するものとする。


 第五条 本会の新会員は全会員の同意無く入会することはできない。


 【会訓】

 一、優しく強い女性を目指しましょう

 二、自分本位になること無く、他者の心を尊重しましょう

 三、いつも微笑みを持ちましょう

 四、常に正直に清浄でありましょう

 五、湊様を独り占めしてはいけません


 凄い、マコちゃん。本格的。

 これ、素案というより成案じゃない。

 会訓の最後のところは、意義を唱えるところなのだけど。



「凄いな、これ全部一人で考えたのかい? 真琴ちゃん」


「本当、真琴さん。会長適任だよ」


「うん、マコちゃん凄いよ。尊敬しちゃう。最後のところは気になるけど」



 マコちゃんは嬉しそうに返答した。



「皆様にそのようなお褒めのお言葉を頂き、大変恐縮でございます。

 適任であるかは疑問を持つところでございますが、わたくしと致しましても精一杯勤め上げる所存です」


 その決意表明の後、少し思い悩むように付け加える。



「ですが、香さんにご入会して頂いているものですから、こう女性を意識した則や訓では、些か心落ち着かないのではございませんか?」


「あ、それは気にしてくれなくていいよ。僕がそのことを気にしていたらこの会には入れないしね。

 確かに女性女性というのは戸惑う点もあるけど、僕としてはミナや沙織、真琴ちゃんと一緒の会にいれるんだから役得でしょ」


「そう仰って頂けますと恐悦に存じます」



 ホッと肩を撫でおろしたかのような様子を見せるマコちゃん。



「そういえば、ミナの会に相談者は来ているのかい?」



 不意にカオル君が訊いてきた。

 そう、会の頭にわたしの名前が付いているってことで、みんなわたしの名前で会を呼ぶようになったのよ。

 カオル君は『ミナの会』、マコちゃんは『湊様の会』、沙織は『湊ちゃんの会』って。先生なんて『綾瀬の会』って呼ぶもんだから、もう違う会みたい。

 わたしは『女子の会』って主張しているのだけど、わたしの名前で呼ばれちゃうと誰の会かわからなくなるでしょ。

 主旨的には『相談者への会』だと思うんだけどなぁ。


 そしてわたしが、カオル君の質問を返そうとしたそのとき。


『コンコンコン』


 ノックの音が響いた。



「どうぞ」



 わたしはそのドアに向け、返事をした。



「失礼します」



 入ってきたのは、おとなしそうな女の子。

 お下げで黒縁の眼鏡。

 まるで少し前までの沙織のよう。

 態度ではなく見た目がね。

 まだ幼さを感じさせるところがあるから、きっと一年生だね。

 わたしはその子のところまで迎えに寄った。



「どうしたの?」



 と、わたしは場違いな問いをしてしまう。

 だってここは女の子が相談に訪れる場なのだから、まず「何か困ったことがあったの?」と訊くのが正解。

 まあ、相談者であれば第一号なのだし、仕方がないと自分に甘く評していると。



「ここは悩み相談のところって訊いたんですが……」


「そうよ。いらっしゃい。それじゃ、座って話を訊くね」



 女の子をソファーに誘導する。

 窮屈さを気にしてかマコちゃんが会長席に移ったので、マコちゃんが座っていたところに女の子を促した。



「まずこちらの紹介をしますね。

 今、あそこの席に着いたのが会長の瀬野さん。こちらが野西さんで、こちらが西條さんです。そしてわたしは綾瀬といいます。よろしくね」



 わたしは軽く手を添えながらみんなを紹介していった。

 みんなは「宜しくお願い致します」「よろしくな」「よ、よろ、しく」と軽く会釈をして挨拶をしている。

 すると女の子は恐縮した態度をもって応答した。



「わ、わたし、一年の、唐沢彩月です。どうぞよろしくお願い、します」



 畏まった様子で挨拶をする彩月さん。

 ちょっと緊張しちゃっているのかな?



「ねえ、彩月さん。ちょっと右手を見せてくれないかしら」


「み、右手ですか?」



 恐る恐る右手を出す彩月さん。

 わたしはその手を取り、掌をできるだけ優しい手つきでマッサージを始めた。



「これね、緊張した時、ここをマッサージするのがいいんだって。すごく効くみたいだから気持ちを楽にして、ね!」



 わたしは笑みを作りながらモミモミモミとマッサージをした。

 硬くなった手の強張りが解れていくのがわかる。

「ありがとうございます」と、彩月さんはわたしに微笑みかけてくれる。

 向かいのソファーから「ミナ、僕にもやってくれないか」なんて、羨ましそうにしている人がいるのだけど、「カオル君は緊張してないでしょ」と一蹴し、周りの笑いを誘う。


 解れたところでわたしは手を離し、本題に入ることにした。



「もう大丈夫かな。彩月さん、わたしたちこう見えても結構頼りになるから、心配しないでなんでも打ち明けてね」


「はい、実は……」

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