第43話 討論【前編】
翌日の放課後。
さっそくわたしは、ルーク君と話をするため会室に呼んだ。
日本にいられる時間も短いのだし、善は急げということで。
まあこの場合は、善ではないのかもしれない。
さすがにわたしたち四人で、ルーク君を取り巻くのはフェアじゃない気がしたので、会室でルーク君と対話するのは、わたしとマコちゃんの二人。
わたしとマコちゃん、対、ルーク君でテーブルを挟みソファーに腰掛けた。
本来ここは男子禁制なのだけど、カオル君と沙織に説明し特別にと。
いつから男子禁制になったのかって?
もうだいぶ前からドアのところにプレートが貼ってあるわよ。
早速わたしたちの討論会が始まった。
ちょっとクドくなるけれど、付き合ってね。
「ルーク君、呼びつけてしまってごめんなさい。
昨日、マコちゃんから大凡の事情を訊いてわたしも他人顔じゃいられないから、この場を設けさせていただきました。
こんな短時間で確執は埋められないかもしれないけれど、わたしは誠意をもってお話をしたいと思っていますから」
「僕の方こそ昨日は失礼な態度をとってしまい、すみませんでした。どうしても感情が抑えきれなくなってしまいまして。
最初に言っておきますが、僕たちもソフィア様のことをお慕いしています。だからどんな流れになったとしても、それだけはわかって欲しいと思っています」
「お互いマコちゃんのことが好きなのに、どうしてこんな対立するようなことになっちゃうんでしょうね」
わたしは苦笑いを持って、ルーク君の『慕っている』という言葉に同意した。
「まず、わたしとマコちゃんのことについてお話します。ルーク君はわたしとマコちゃんの関係についてといいますか、わたしとマコちゃんとの約束について知っていますか?」
「ああ、幼少時にこの日本でしたという約束ですよね。あなたに似合う女性になって戻ってくるとかいう」
「そう、若干違うのですが、わたしに相応わしくなって戻ってくるから待っていてと。
わたしはその言葉を信じて待ちました。マコちゃんもわたしとの約束を果たすために頑張ってきてくれました。
わたしはマコちゃんのことを男の子だと思っていたんですけどね。まあ、それはいいとして。
この前、わたしの親友にマコちゃんのこと本当に男の子だと思っていたのかって訊かれたんです。その時はわからなくなって混乱しちゃったんだけど、よく考えたらそんなことどうでもいいことでした。
わたしはマコちゃんが男の子だから好きだったんじゃない。マコちゃんだから好きだったんです。それはマコちゃんも同じだと思います。
そして十年間も想い続けて待っていられた。その事実、お互いに対する想い、それは紛れもなくわたしたちの気持ちの真実なんです」
「湊様……」
微かな笑みを浮かべ、頬を季節外れの桜色に染めるマコちゃんに、同じ笑みで同調し話を続けた。
「昨日、ルーク君は大企業の御曹司と婚約することが幸せだと言っていましたよね。
確かに大企業に嫁ぐことも幸せなのかもしれません。でも、マコちゃんはこの日本に来たとき、ビジネスホテルに住んで、お昼なんかおにぎり一個で、慣れないアルバイトまでして、それでもわたしとの再会に会いたかったって、嬉しいって、ずっと一緒にいたいって言ってくれて。そんな生活になってまでわたしの元へ来てくれました。
これはマコちゃんが、お金よりもわたしの事を必要としてくれている証明なのだと感じます。
お金も大事かもしれませんが、きっとお金も幸せを作るほんの一部だと思うんです。だから自分の信じる幸せを無視してお金に行くなんて、それは本当の幸せじゃないんじゃないでしょうか」
わたしの話を真剣に訊いているルーク君が、自分の意見も言いたいと口を開く。
「君の言っていることも一理あると思いますけどね。僕はお金がなくなって破産して不幸になっていく人たちをたくさん見てきています。その人たちの末路は決して幸せとは言えませんでした。
お金がなくては何もできません。生活にまず必要不可欠なのはお金なのです。だからお金を持つということは、悪いことではないんですよ。
君のことは少し調べさせてもらいましたけど、君の家は裕福な家庭ですよね。そんな君には、本当にない人の気持ちはわからないんじゃないんですかね」
うっ、そりゃあ調べてくるわよね。
「痛いところ突かれちゃいましたね。仰るとおりわたしの家は、裕福な家庭だと思います。ですからわたしがお金がない人の話をするのは説得力に欠けますよね。
それではわたしの視点から論点を少し変えて言わせてもらうと、マコちゃんが現れたことで、再び会いに来てくれたことでわたしは確実に幸せになったと断言できます。
わたしはこの幸せを一生離したくないと思っている。そしてわたしは裕福な家庭。だったら、わたしがマコちゃんをお金に困らないように、幸せにしていけばそれ以上ないんじゃないでしょうか」
わたしの三段論法のような屁理屈気味の理屈に、ルーク君は不敵な笑いを浮かべた。
「フッ、それは無理でしょ。あなたは現在学生なのだし、女性なのですから将来的に裕福になるとは限らない。
婚姻関係を結べない以上、一生という保証もありません。確たるものがない以上、信用には値しませんね」
「確たるものはわたしの家族です。これまでもこれからも、わたしは家族を信頼しています。
そしてその家族に応えるために、わたしは自信を持って未来に向かっています。この絆は何ものにも負けはしません。
それにこの時代、婚姻関係は一生のものとは言えません。この日本でも三組に一組は離婚していると言われているくらいですしね。
大企業であっても破綻することもあり、その余波で婚姻関係も解消したとしたら何が残るのでしょうか。それに勝るものこそ絆だとわたしは思います」
「それは詭弁ですね。家族の絆だって破綻はします。あなたのお父様の会社だって破綻してしまえばどうなるものか」
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