第38話 お泊まり

時は小一時間流れ、場所はわたしの部屋。


 わたし、マコちゃん、沙織、カオル君の四人でトークを繰り広げていた。

 バスケの話から始まり、同好会の話、お姉ちゃんと先生の話まで。


 どうでもいいことが一番楽しい。

 気の合う四人で話していたら、あっという間に時計の針は進んだ。

 習い事はおろか、勉強すらしていないけど諦めよう。

 それほどまでに針が回ってしまったものだから。


 そしてわたしはカオル君に、「明日お休みですし、泊まっていけばいいんじゃないですか?」と提案したんだ。

 もう既に九時過ぎ。

 女子高生が、夜間に一人歩きするのは危険だしね。


 カオル君は「是非そうしたい」と、遠慮なく首を縦に振り嘆願していた。

 沙織まで「わたしも泊まりたい」と、威勢よく懇願する。

 それを同意すると、今度はマコちゃんが「わたしも皆さまとご一緒に、床に付きとうございます」と、慎ましやかに哀願してくる。

 これも断る理由がないので、結果、みんな一緒にわたしの部屋で寝ることになった。


 流石にわたしのベッドでは二人までしか寝られないし、誰か一人だけをベッドに、というわけにもいかないから、三人は下に布団を敷いて寝てもらうことに。

 お母さんに事情を説明して了承をもらい、カオル君の家に電話にて連絡。

 わたしがカオル君のお母さんにいきさつを説明すると、「香がお友達の家に泊る日がくるなんて。よろしくお願いしますね」と恐縮されてしまった。


 部屋を片付け、ベッドの下に三つの布団を並べる。

 さあて、寝ますか。と、その前に。


 気持ちよく寝るなら、やっぱりお風呂でしょ。

 というよりも、毎日お風呂に入らなくちゃわたしは寝られない。

 そこで順番を決め、お風呂に入ることになった。


 いざ順番決めをすると、みんなの考えがバラバラだった。


 わたしは一人でゆっくり入りたい派。


 沙織は昔、わたしと一緒に入っていたから、当たり前のように一緒に入ろうとする。

 うちのお風呂は結構広いから、二人で入ったとしてもゆったり入れる。

 でもわたしとしてはやっぱり忙しいので、遠慮したいのだけど。


 マコちゃんは「わたくしは皆様がご入浴されたあとでm結構でございますで」と、いつもと同じ言葉を口にしていた。

 ただ、沙織が過去にわたしと入ったことを知って、羨ましそうな顔が出ていた。


 カオル君は「僕は入らなくてもいいかな」と、ボソッと呟いた。

 カオル君なら「ミナ、僕と一緒に入らないか」とでも言ってきそうなものなのに、お風呂の話をした途端、困ったような悲しいような、そんな表情を見せた。

 そこは無理強いもできないので、今回カオル君は入らないことになった。


 結局、わたしの意見が通り、順番をなんとか決めたにもかかわらず、わたしの入浴中に沙織とマコちゃんが入ってきた。

 文句をぼやいてみるものの、これはこれで楽しい。

 自宅にいながらちょっとした旅行気分で、体を洗いっこしたりもした。

 三人で浴槽につかえると、狭いどころかイモ洗いといった状況で、いろんなところの肌が接触して、いつもお風呂では味わえないドキドキ感が私を襲う。

 ここぞとばかりに、二人ともいろんな処を触ってきて、思わず声が出てしまうことも。

 四人じゃないことに少し寂しさを憶えるところだけど、四人だったら定員オーバーで入れないか。


 その後、今度はパジャマがないことに気づく。

 とは言っても、沙織は自宅に取りに行ったので、カオル君のパジャマだけ。

 どうしようかとお母さんに相談すると、「お兄ちゃんの服を貸してあげたらいいんじゃない」と良案が飛び出した。

 お兄ちゃんはカオル君より少し大きいのだけれど、センスもいいし清潔だし几帳面だし。


 性格からか、パジャマはおろか下着まで未使用未開封のものもあるから、お母さんが勝手にお兄ちゃんの部屋に入って選別してきてくれた。


 それぞれお母さんに『おやすみ』の挨拶をした後、布団に身を潜り込ませる。

 わたしの方からマコちゃん、沙織、カオル君の順。


 この位置決めも、カオル君の要望でこうなったんだ。

 布団に入る直前になって、「やっぱり僕は別の部屋で寝ようかな。女の子の部屋で女の子達と一緒に寝るのは、ちょっと抵抗あるかも」と、戸惑い全開で拒否してきた。


「寝る場所はカオル君に任せるから、今日は一緒に寝よ」とお願いし、なんとか了解を得る。

 沙織の「わたしが隣で寝れば大丈夫です」という根拠のない自信も添えられ、なぜか気持ちも落ち着いたみたい。


 みんなが横になり、灯りを豆電球にする。

 淡い紅葉色が、徐々に部屋の空気と融合していった。


 今日もいろいろあったなぁ。

 楽しかった。


 わたしは興奮冷めやらない感じで、みんなを見下ろす。

 下に寝ているみんなも同じようだった。

 いい機会だからと、わたしは野暮なことを訊いてみることにした。



「みんなはどうして、わたしのことそこまで好きでいてくれるの? 

 わたしは男の子が好きだって言っちゃっているんだし、その想いに応えられるほど何もしてないし。

 今のわたしにそこまで魅力があるか、正直疑問だし」



 下でヒソヒソと話を始めた。


 そして意見が纏まったのか、マコちゃんが口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る