第33話 試合【後編】
わたしはその様子を、微笑ましく見守っている。
不意に、わたしの足に何かが『コツン』と当たった。
それはさっきまで白熱していた試合で、飛び交っていたもう一つの主役、バスケットボールだった。
そのボールを手にすると、まるでボールが映写機となり、試合の映像を浮かべるが如く思いに耽ってしまう。
バスケットやっているカオル君、かっこよかったな。
仲間と心を一つにして闘う姿。
性別がどうのってことが、すごく小さいことだと思えてくる。
やっぱりマコちゃんも沙織もカオル君も、大切にすることは間違ってないんだ。
わたしは間違ってないよね。
そんなことを考えながら、バスケットボールを無意識についた。
試合の情景を浮かべながら、ゴールを見据える。
カオル君のスリーポイントシュート、綺麗な放物線を描きゴールに吸い込まれていた。
それをなぞり、重ねるが如くシュートを放ってみる。
思い描いていた光景と同じ軌道で、飛んでいったわたしのボール。
そのボールを『カサッ』とゴールが中に迎えてくれた。
決まった途端、体育館中からオーという声と共に拍手が巻き起こった。
わたしは自分の世界から呼び戻されたように、ハッと我に還る。
体育館の中心にいるみたいに、わたしに視線が注がれている。
なんか余計なことをしちゃったみたい。
恥ずかしくて目線を落とし苦笑いをしていると、まずカオル君が「凄いよ、ミナ」と、興奮気味に迫ってきた。
「いや、たまたまマグレで決まっただけですし。たかが一本シュートが入っただけでそんな……」
「たまたまって、ここ距離的にはハーフライン並だよ。そんなシュート、僕にはたまたまでも決められないよ」
カオル君は目をギラつかせ、興奮収まらない様子。
そこに二階堂先輩が合いの手を。
「本当に凄いわよ。フォームも綺麗だし、綾瀬さん女バスに入らない?」
あー、それはダメ。
習い事もあるし、今更こんな強豪校でバスケなんて付いて行けないよ。
断ろうと思っていたら、代わりにカオル君が断ってくれた。
「春奈、それはダメだ。ミナは忙しいんだ。それにミナがチームに入っちゃったら、絶対ミナのことを好きな奴が出てくるに決まってる。このチームでミナのことを好きなのは僕一人で十分だ」
「そう、残念だわ。でも気が変わったらいつでも言ってね。綾瀬さんが運動神経抜群なのに何の部にも入っていないのは校内でも有名よ。勿体無い。綾瀬さんならポスト香は間違いないのに」
お言葉は嬉しいけど、やっぱり無理だ。
それでも優しく誘ってくれた二階堂先輩に対して、「ありがとうございます。折角誘ってもらい申し訳ないですが、遠慮しておきます」と返答をした。
そして周囲の人たちの視線が、なかなかわたしから離れてくれなさそうなので、「わたしたち、もう戻りますね」とマコちゃんと沙織の手を掴み、「いこっ」と二人に言うや否やそそくさとその場を後にしたのだった。
「やっぱり湊ちゃんは凄いね」
「はい、湊様は偉大でございます」
「二人とも、もうそのことは忘れてよー」
会室に戻りながら、苦笑いしか出ないわたしに、二人はまだ引きずってくる。
何か話題を変えないと。
何かないかなぁ。
あっ、そうだ!
「ねえ、今日、うちで女子会しない? 一番頑張っていたカオル君にお疲れ様も言いたいし。会室もあるけど、うちの方が気楽にできるからさ」
「それはよろしゅうございますね」
「うん、それいい。香さんにはわたしから連絡しておくね」
「よろしく、沙織。カオル君には晩御飯もうちで食べるからって言っておいてね」
「うん、わかった」
「そうであれば、わたくしたちも会室を片し帰宅いたしましょう。お母様にもご報告せねばなりませんし」
「そうね」
わたしの提案にみんな快く賛同してくれた。
まあ結局、マコちゃんは同居しているし沙織は隣に住んでいるのだから、カオル君を呼ぶだけなんだけどね。
わたしはキッチンに入れないから夕食の用意は、お母さんとマコちゃんと沙織になっちゃうのだけど、みんな料理が得意だから、今晩はご馳走だ。
きっとカオル君も喜ぶよ。
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