第19話 待っていた親友
湿っぽくなっちゃったので、別の話題に切り替える。
わたしの過去の話をすると言ったら、「是非お聞かせください」と食いついてきたので「家に着くまでね」ということで。
ここで打ち明けたのは、沙織と尊とのこと。
沙織と尊は、中学一年生の時に引っ越してきた幼馴染。
沙織が引っ越してきた時は、同じくらいの子が隣に越してきたなぁって感じだった。
でもいつの間にか、わたしの後ろを離れなくなっていた。
だから、旅行とかはよく一緒に行ったんだ。
出会った頃の沙織はもう胸やお尻が立派だったの。
垂れ目で童顔だったから大人には見えなかったのだけど、そのスタイルのせいで周りの視線には結構苦労してたと思う。
わたしが気づいた時にはよく追い払っていたなぁ。
あの重度の人見知りはそれが原因の一端なのかもしれない。
尊はといえば、最初の印象が天狗で格好つけ。
今の尊からは想像もできないと思うけどね。
初対面は合気道の道場で、おじいちゃんが見所あるからって連れてきた。
初めて会ったにも関わらず、「女となんかやって泣かれたら困る」とか言って馬鹿にしてきたものだから、いいだけ投げ飛ばしてやったわ。
そしたら今度は、合気道で敵わないもんだから勉強で勝負だって。
当然、わたしの圧勝だけど。
そういえば空手もやっているって聞いたことあるけど、わたしはやっていないのにどうしてやろうと思ったのかな。
マコちゃんの「沙織さんと尊さんのご関係は、どの様な感じなのでございましょうか?」という質問に「沙織と尊は結構仲いいよ」と返した。
マコちゃんは「沙織さん、尊さんには緊張なさらないんですね」と小首を傾げる。
そうだよね。当然のように仲が良かったから疑問にも思わなかった。
わたしは兎も角、なぜ尊と仲良かったのかな。
改めて考えてみると不思議。もしかして、沙織は尊のこと……?
違うよね。沙織はわたしに告白してきたんだし。
だとしたらなぜだろう?
ま、いいか。
そういえば昨日の沙織のこと、マコちゃんに話してあげよう。きっと喜ぶわ。
「昨日、沙織ったらね。大事な親友のお迎えとお母さんの誕生日が重なっちゃうなんて、なんて不幸なのって泣いてたんだよ。もう号泣。
沙織ったら、マコちゃんのこと相当気に入っているみたいだから、余程悲しかったのね。もうこの世の終わりって感じだったのよ」
「それは嬉しゅうございます。わたくしも沙織さんのことは大好きですもの。確かに魅力的なお身体でございますしね」
「マコちゃん、その発言ちょっと危ないよ〜。沙織には絶対言っちゃダメだよ」
そんな会話で盛り上がっていたら、すでに間近となりつつあった自宅の方から、誰かが走ってくるのが見えた。
踊る胸を気にも留めない様子でこちらへ向かってくる。
「湊ちゃーん、真琴さーん」
どんどん近づいて来るのは、沙織だった。
わたしたちの元へ到着するなり、「はぁはぁ」と息を切らしながら膝に手をつく。
「フゥ。遅いよ、湊ちゃん、真琴さん。ずっと外で待ってたんだよ。
真琴さん、お仕事頑張ってお腹空いてるだろうし、どうせ湊ちゃんも真琴さんに合わせて何も食べてないだろうからって、ご飯作って待ってたのに」
「もしや、わたくしのために夕食までご用意して頂けたのですか?」
「当たり前でしょ、親友なんだから」
沙織の愛らしい不満顔に、わたし達は顔を見合わせ安堵の笑みを漏らす。
「フフフフ」「うふふふふ」
「なーに? 二人とも」
「フフフフフフ」「うふふふふふ」
「もういい、わたし帰る」
「沙織ぃ、ごめんね。別にあなたのこと笑っていたわけじゃないのよ」
「そうですとも。わたくしたちは沙織さんにご好意を寄せる余り、笑みが溢れてしまったのでございますわ」
「どう見てもわたしのこと笑っていたじゃない。真琴さんも言っていることが支離滅裂ですよー」
「そんなに怒らないでよ。謝ったじゃない。大好きよ、さ、お、り」
「もう湊ちゃんたら。わたしはそんな言葉で騙されないけど、もう一回言ってくれたら騙されてあげる」
「湊様。わたくしにも仰って頂けませんか」
「あっ、真琴さん。今はわたしの回なんだから横入りダメです」
「沙織さん、連れないことを仰いますね。ご親友ではございませんか」
「もう、みんな大好きだから早く帰ってご飯食べよ〜」
そうして漸くマコちゃんがうちに住むことになったのだった。
待ってたよ、マコちゃん!
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