第10話 マコちゃん再び【前編】
翌日の早朝、わたしと沙織はいつものように学校までの道のりを歩いていた。
そして昨日の沙織改変計画で盛り上がり、手応えを感じた余韻に未だ浸っていた。
沙織との出来事、習い事、勉強。
それらに集中することで、マコちゃんとの一件を考えないようにしていたのかもしれない。
「沙織があの変身で、どんな風に変わっていくのか楽しみだな〜」
「そう? 湊ちゃんにそこまで楽しみにして貰えるなら、やり甲斐もあるよ」
なんか当初の趣旨と外れた会話だったのだけど、楽しみながら変われるのならそれに越したことはないよね。
だけど、好きな人ってどんなタイプかくらいは訊いておかないとなぁ。
可愛い系にするか清楚系にするか、はたまた知的系にするか、確実なものにするなら大事なことだから。
校門近くに行くと、沙織が『もう終わりか』という顔をしてわたしから離れようとする。
その刹那、後ろからわたしの手が優しく包まれた。
「おはようございます、湊様」
「あっ、おはよう、マコちゃん」
マコちゃんは昨日と同じく、なんの気兼ねも見せずわたしに寄り添ってきた。
そしてわたしもマコちゃんと手を繋ぐことは、すでに抵抗がなくなっていた。
慣れって怖いわ。
「そちらのお方は?」
マコちゃんはニコリと微笑むと、視線を沙織の方に向けてわたしに問いかけてきた。
「えっと、この人はわたしの親友で、西條 沙織ちゃん。あっ、沙織、挨拶大丈夫?」
引っ込み思案な沙織だけに、いきなりは厳しいかなと思いつつ、沙織の顔色を伺いながら訊いてみた。
すると、沙織は少し顔を引きつらせながらも、口を開く。
「うん、湊ちゃんありがとう。さっ西條 沙、織です。湊ちゃん、とは仲良く、させてもらってい、ます。よ、よろしく、お願い、します」
沙織、それはいきなりお父さんに会ってしまった、彼氏のセリフでしょ。
「そうでございましたか。それでは改めまして、わたくしは瀬野 真琴と申します。
湊様とは将来を誓いあった仲でございます。湊様のご親友で在られるのであれば、わたくしの親友にもなるかもしれないということでございますね。
以後、お見知り置きを」
優雅に会釈をするマコちゃん。
将来を誓いあった仲というのは、今となってはちょっと語弊があるけれど、ある意味間違ってはいない。
そしてわたしは、苦笑いを浮かべるしかない。
沙織は、再度マコちゃんに向かって「は、はい、よろしく、お願いします」と深々と頭を下げた後、「湊ちゃん、それじゃ帰りにね」と言って、校舎の方へと消えていった。
マコちゃんは顎を親指と人差し指で挟み、意味ありげな思案の素振りを見せた。
ジッと沙織を見つめたまま。
「どうしたの? マコちゃん」
「あのお方が湊様のご親友。湊様とは真逆なご性格は善しとして、あのお方からはわたくしと同じ匂いが致します」
「同じ匂い?」
「そうでございます。わたしが湊様を敬愛しているのと同じと言いましょうか」
「ああ、それなら沙織は中学の時から一緒にいる、言わば幼な馴染みの親友なの。
わたしも彼女のことが好きだし、そういうことじゃないかな」
マコちゃんはあまり腑に落ちないという顔をしていたものの、「気にするほどのことでもございませんね」と、わたしの手を引き歩き出した。
一緒に校門を過ぎると、昨日までのように生徒たちが挨拶をしてくれようとするも、マコちゃんの存在もあって、さながら大名行列を待つ町民ように、玄関までの道のりが左右に割れていった。
マコちゃんのことを知らない人もいるので、疑問符を目に浮かべ「おはようございます」「おはよう」とくれる挨拶に、苦笑いを浮かべながら返すわたし。
マコちゃんはその横で、まるで皇族が庶民に手を振るように「おはようございます」と和かに返している。
この気品ある行動は大したものだ。
合間にわたしは「マコちゃん、色々話したいことがあるんだけど」と誘うと、「お昼休みにでも」と応えてくれた。
まあ朝なのだから、改まった話をするには時と場所が違う。
教室に入るとマコちゃんが沙織に気づいて、「沙織さんも同じクラスだったのでございますか?」と話しかけようとした。
が、わたしは「ごめん、ちょっと事情があって、教室ではあまり沙織と話はしないんだ」と説明。するとマコちゃんは頭の回転が早いのか、すぐさま沙織にニコリと笑みを向けた後、そこを流していた。
「おはよ、尊」
わたしはすでに登校していた隣の席の、尊に挨拶をした。そして尊は「おはよう、湊」とすぐに返してくる。
けれど後ろから「おはようございます」とマコちゃんが挨拶したら「お、おはようございます」と、あの尊がどもっていたので「ふふっ」と笑いが出てしまった。
「マコちゃん、尊も沙織と同じ幼馴染なの。尊は向かいに住んでいるんだけどね」
「そうなのですか。不束なわたくしではございますが、よろしくお願い致します」
そう言って会釈をするマコちゃんに、尊は「こっ、こちらこそ」とやはりどもっていたので、更に「ふふふふっ」と口に手を当てながら笑ってしまった。
尊はそんなわたしにジロッとひと睨み効かせてきたけれど、無視したんだよね。
ふふふっ!
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