第9話 沙織の決意【後編】

そんな話をしていると、沙織念願の新作バーガーがやってきた。

 まず腹ごしらえをしよう。

 お腹が空いていると妙案も浮かばないし、沙織は新作バーガーに目が釘付けだし。


 その新作バーガーのボリューミーなこと。

 これだけで一日分のカロリーを摂取するんじゃないかしら。

 わたしは毎日運動しているから、あんまりカロリーとかは気にしたことないし、沙織は栄養になるところが限られているから、わたしたちにダイエットは今のところ無縁なんだ。

 とは言っても、沙織は二個注文していて、さすがに食べ過ぎだとは思うのだけど。


 勢いよく新作バーガーにかぶり付く沙織。

 美味しそうに食べるなー。

 もともと垂れ気味の目が更にとろけ出し、頬っぺたも落ちそうな感じ。

 それにつられてわたしも一口。

 あっ、美味しい。

 思わず「美味しっ」と言葉が漏れると、空かさず沙織が「美味しいねー」と、満面の笑みで頬張りながら同調してきた。


 暫く食事を堪能するわたしたち。

 まあ、沙織はペロッと食べちゃったから、わたしが食べ終わるのを沙織は楽しそうに見ていた。

 最後の一口を食べ終え軽く喉を潤したあと、また話を戻すことにする。



「それでさっきの話なんだけど、わたしに考えがあるんだよね」


「考え? どんな考えなの? 湊ちゃん」


「ズバリ訊くけど、沙織は男子で誰か気になる人はいるの?」



 何を訊くんだと言わんばかりに、顔を強張らせる沙織。

 直球すぎたか。

 でも沙織は頑張って応答してくれた。



「気になる男子っていうか、好きな人はいるんだ。その人のことはずっと前から好きなの」



 照れ臭そうにというよりも、真剣に告白している沙織。

 ていうか、かなりビックリしたんですけど。

 今まで沙織からそんな言葉、一度も訊いたことがなかったから、沙織も女の子なんだなって安心しちゃった。

 わたしがマコちゃんの話ばかりをしていて、話すタイミングを与えなかったのかもしれない。



「知らなかった。うちの学校の人なの?」


「そうなんだけど、その人を好きなのわたしだけじゃないんだ。凄い強敵。でも気持ちはわたしも負けてないと思う」


「わたしの知っている人? 誰なの?」


「ごめん、今は言えない。まだわたしにはその人に向かって、胸張って好きだと言える自信がないの。その時がきたら言うね。

 だから、湊ちゃんがわたしを変えてくれるって、すごく嬉しいよ。さっきはこのままでいいなんて言っちゃったけど」


「そっか。誰かなんて今は訊かなくてもいい。話をしてくれて、わたしも嬉しい」



 わたしは沙織の手をギュッと握った。

 沙織はさっきよりも更に頬を染めた。

 好きな人がいるって言うのは、やっぱり恥ずかしいよね。

 すると沙織は、瞳を少し潤ませながら、せがむように言ってきた。



「湊ちゃん。協力してくれるって、もし失敗しても、わたしのことを見捨てたりしないよね? ずっと親友のままではいてくれるよね?」



 わたしが見捨てるって、何を言ってるの?

 でも必死に嘆願している沙織に、わたしはもちろんという顔で頷く。



「当たり前じゃない。なんでそんなことを訊くのかわからないけど、わたしが沙織を見捨てるなんてことは絶対にない。神に誓ってもね。失敗した時のことを考えるより、成功のために頑張ろうよ」



 沙織は安堵な表情を見せ「うん」と首を縦に振った。



「それじゃ、沙織のイメージを変えていくことから始めよう。自信を付けるには、まず見た目だからね。

 わたしにはお姉ちゃん直伝のテクニックがあるから任せて! 何か要望はあるのかな?」


「特に要望はないよ。わたしは湊ちゃんがいいと思う感じなら、大丈夫だと思うから」


「いやいや、わたし個人としては沙織が今のままでもいいとは思うよ。でも綺麗になれば必ず自信になるから。経験者は語るってやつ。

 沙織はかなり奥手なんだから、少しでも自信をつけた方がいいと思うし、わたしも沙織が変わった姿も見てみたい」


「わかった。よろしくね、湊ちゃん」


「うん、一緒に頑張ろ」



 それからわたしは、沙織に『お姉ちゃんから教えてもらった技術の粋』(主に表情の作り方や女性らしい仕草とか。あとナチュラルなメイクね)を伝授した。

 髪型はおさげをやめて、ナチュラルカールにし前に下ろすことで、コンプレックスである胸を隠した。

 メガネは黒縁からオレンジのフルリムにすることで、気にしているタレ目を可愛く演出する。

 ガリ勉のように見えていた雰囲気が、清楚で可憐な女性へと変貌を遂げた。


 完成した時は、わぁと二人で手を握り合って喜んだ。

 だって、本当に素敵なんだもん。

『これで成功間違いなしだわ。どんなライバルか知らないけれど、負けるはずがないじゃない』と、わたしは勝ち誇った気持ちになっていた。


 内面的にはすぐに変えられるわけもないので、まず学校の中で下を向かずに顔を上げてみようとアドバイスした。

 これは焦らず少しずつ、沙織のペースでね。

 それに挨拶もできるだけしようと促す。

 二人だけで挨拶の掛け合いを往復練習し、様になってきたところで変な練習をしていたことに気づき、二人で笑い合った。


 告白は『もう少し機が熟してから』ということで、容姿の変身も元に戻した。

 そして後は、沙織が自分一人でできるように練習する、と息巻いていたので、沙織のペースに委ねることにしたのだった。

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