第4話 始まりの教室
校門を抜けると「絢瀬さん、おはよ」「おはよう、絢瀬」とみんながわたしに挨拶をしてくれる。
わたしも微笑を浮かべながら「おはよう」と返していく。
みんなわたしを見かけては挨拶をしに来てくれるので、すごく嬉しい気分になる。
気がつくと沙織はいなくなっていた。
普段のんびりしている割には、こういうとき素早いんだよね。
ああ、大好きな親友がいて、友達が慕ってくれて、これで『マコちゃん』という彼氏がいてくれたら最高だなぁ。
彼氏、彼氏か〜、うふふ。
なんかわたしの人生うまくいってるかな、なんてね。
思わすフラグってやつを立てちゃった。
これでマコちゃんが帰ってこなかったら大変だ。
教室に到着すると、自分の席に向かう。
自席の位置は予め昨日メールで届いていたから、すんなり着くことができた。
わたしの席はちょうど真ん中くらい。
なぜかわたしの後ろが空席になっているけれど、別に問題とするところじゃない。
そして自分の席に着くと、「おはよう、湊」と隣から訊こえてきた。
爽やかな緋色の短髪に、切れ長の眼差し。通った鼻筋。
女子にかなり人気の男の子だ。
顔もいけているのに、頭も良くてスポーツもできるなんて、ちょっと反則。
わたしが『マコちゃん』を好きじゃなかったら、惚れていたかな?
いや、ないな、ないない。
彼は『相馬 尊』
尊はわたしの家の向かいに住んでいる。
そう、沙織と尊とはご近所さんなんだ。
幼馴染ってやつ。
沙織と尊はちょうど中学一年生の時に、引っ越して来たの。
別に二人の間には縁もゆかりもなくって、二人ともたまたまお父さんの転勤に連れだって来たんだ。
沙織はいつの間にか、わたしの部屋にいて一緒に遊んでいたという感じで、尊はおじいちゃんの道場の門下生。
だから尊とは武道仲間ってやつね。
筋がいいから、おじいちゃんのお気に入りで、「心身ともに鍛え、湊を幸せにするんじゃぞ」と余計なことを言っている。
わたしには『マコちゃん』がいるんだから、おじいちゃんの余計な言葉は結構、鬱陶しいんだ。
沙織と尊には、『マコちゃん』のことを耳にタコができるほど言っているので、もう刷り込まれていると思うんだけどね。
また結構話がそれちゃったな。いかんいかん。
「おはよう、尊。今回も同じクラスでしかも隣の席。なんか余計な巡り合わせだよねぇ」
「案外、引き寄せられているのかもな」
「朝から、なに言ってくれているの。そんなこと言ってたら、尊ファンから恨み買うからやめてよね」
「恨むような奴がいるなら、俺に言え」
「なに本気で言ってんの? 冗談に決まってるでしょ。
そんなことより、沙織も同じクラスになって良かったわ。あの子、わたしか尊がいないと緊張して具合悪くなっちゃうからね。
でも、もうそろそろ鍛えていかないとダメだと思うんだよね。今のままじゃいつまで経っても彼氏もできないし」
わたしは前の方に座っている沙織に、目線を送りながら尊に言った。
当の沙織は下を向き、相変わらず『誰も話しかけてこない』って感じのオーラを放出している。
とほほな目をしながら、尊の方を向くと、尊もやれやれという表情を作っていた。
沙織は尊にも『学校では話しかけないで』と言っているので、いつも一人のところをわたしか尊が見守っているのが日常なの。
尊には、暇さえあれば女子の取り巻きができるので、沙織には荷が重いのはわかるけど。
また、沙織に目線を移すと、頑張ってこちらを向き笑っていた。
でもどう見ても、引きつった苦笑いにしか見えない。
「よし、決めた! 二年生にもなったんだし、本腰入れて沙織を変えなくちゃ」
「普段いつも一緒にいるのに、その辺の話しないのか? 例えば友達になれそうな人とか気になる人の話とか」
「うん。わたしはよく『マコちゃん』の話をするんだけど、沙織はあの人カッコいいとか、その程度なんだよね。
訊こうとすると『訊かないでオーラ』出すから無理には訊いてないんだ。
今の沙織には男の子どころか人と接すること自体があんまりだから、それ以上突っ込めないでいるのよ」
わたしは習い事や合気道の練習以外は、ほとんど沙織と一緒にいる。
どころか、習い事の一つであるピアノも一緒に習っている。
だから沙織と一緒に過ごす時間が結構多い。
う〜ん。沙織が引っ込み思案のままでいるのは、わたしのせいなのかな。
「近々、沙織と話し合ってみる」
「そうか。まあ頑張れよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます