第3話 親友

 今日は、二年生になった最初の日。


 そうそう、わたしは十七歳の女子高生で、共学高校に通っているの。

 私立三枝高等学校。


 この辺では有数の進学校で、お兄ちゃんに勉強をマンツーマンで教えて貰ったから、入ることができた。

 これもマコちゃんのおかげのようなものね。いや、これはお兄ちゃんのおかげか。


 そしてその学校は、家からはそう遠くない距離だから、歩いて通っているんだ。

 学校に登校しているのに、なぜ私服なのかって?

 それはうちの学校が、私服オーケーだからだよ。


 今日は始業式ということもあり、花柄の白いワーンピースを着てきたの。

 可愛いでしょ。



「湊ちゃん、ひどいよ〜。始業初日から置いていくなんて」



 そういいながら女の子が追いかけてきた。

 親友の『西條 沙織』だ。


 わたしの家の隣に住んでいる。

 少しタレ目で愛らしい眼差しなのに、黒縁メガネでその可愛らしいまなこを隠してしまっている。

 オリーブ色の髪をおさげにして、なるべく目立たないように努力しているのだけど、スタイルがすごく良くて、胸なんか男の子が振り返るくらいなの。

 わたしもそれなりにある方だと思うんだけど、沙織と比べたら悲しいかな自信をなくしちゃう。

 沙織にしたら、そんな胸はコンプレックスで嫌だって。

 服は紺色のダボっとしたシャツに、黒い長めのスカートを着ていて、目立たないようにって感じが出まくっているんだ。



「だって沙織、校門抜けたら、またわたしから離れるんでしょ。家から学校までの時間なんて何分もないじゃない」


「わたしは、湊ちゃんと一緒に登下校したいの。何回も言っているでしょ」



 そう口にし、沙織は頬を膨らませている。


 じつは沙織、あんまり賑やかなのが得意じゃないの。

 わたしには、先輩後輩や男女問わず声をかけてくれるから、一緒にいると沙織には辛いみたい。

 だから沙織は「学校では、わたしに近づかなくていいから」って言うのよ。


 声をかけてくれると言えば、わたし、自慢じゃないけど一年生の時は男の子に本当にモテて、十二回も告白されたんだよ。

 いや、ほんと自慢じゃないよ。自慢じゃないってば。

 それで十二回目に告白してきた人が柔道部の三年生で、あまりにしつこく手を引っ張るもんだから、勢い余って投げ飛ばしちゃったのよ。

 それも校庭のみんなが見ている前で。


 その先輩は地区でも有名な程強かったみたいで、『綾瀬に手を出したら怪我ではすまない』って瞬く間に噂は広がったんだよね。

 それからは告白がピタッとなくなっちゃった。

 中には結構かっこいい人もいたから『勿体なかったかな』って思ったり。

 でもそこは『マコちゃん』一筋だし、どうせ断るのだから、丁度良かったんだけどね。


 そんなことがあっても、誰か彼かいつも周りにいてくれる。

 それが沙織は嫌なんだって。

 だからって、「誰もわたしに近寄らないで」とも言えないし、沙織に「みんながいるのは我慢しなさい」とも言えないから、沙織の提案を受けることにしたってわけ。



「ごめんね。そんなに怒らないでよ。わたしは沙織が笑っている方が好きだよ」



 そう言ってニコリと微笑むと、沙織は笑顔を取り戻してくれた。

 沙織が怒った時は、大抵こう言うと機嫌を直してくれるから、もう何か決まり文句って感じ。



「今日から二年生だね」


「うん。二年生でも湊ちゃんと同じクラスになったから、本当に良かった」


「沙織、教室の中であんまり話さないじゃない。それなのに良かったの?」


「勿論そうだよ。湊ちゃんがいると安心するんだ。湊ちゃんがいなかったら登校拒否になってたかも」



 う〜ん。沙織に限っては笑えない冗談だ。


 前に一緒に映画を見に行ったとき、わたしはいいところでおトイレに行きたくなって、「ちょっとお手洗いに行ってくるね」と言ったら、沙織、涙目になって「わたしも一緒に行く」って付いてきたほどだから。

 登校拒否なんかになるなら、それこそ責任重大だもの。

 沙織もわたしみたく、好きな人でもできれば変われると思うんだけどなぁ。

 よく「あの人カッコいいよね」とか男子の話をする時があるから、キッカケさえあればいけるのかもしれない。



「どうしたの? 湊ちゃん。ぼーっとしちゃって」


「え? いや、ちょっと沙織のこと考えてたんだ」


「もう、湊ちゃんたら朝から変なこと言わないで」



 変なこと? と思ったのだけれど、はにかみながら呟いている沙織を見て、『親友のために一肌脱がなくちゃ』と改めて感じた。

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