第2話 現在のわたし

 満開に咲き誇った桜が、風に揺れながら『今が見頃だよ』と囁いている。

 その天幕を潜るように、わたしは通い慣れた学校までの道のりを、一人歩いていた。

 ゆらゆら揺れる桜から、零れ落ちるほのかな香りが、心を落ち着かせてくれる。


 初恋の日から十年の年月が経ち、わたしは未だ『マコちゃん』を待っていた。

 彼との約束を信じて自分を磨きながら……


 わたしの家族は超一流の人たちばかり。

 お母さんがピアノ教室の先生で、おじいちゃんが合気道の師範、お兄ちゃんが名門塾の講師、そしてお姉ちゃんがモデルさんなの。

 だから、手近な所に協力してもらい、自分磨きをすることにしたんだよね。


 最初はどういう女性になるべきか、悩んで悩んで頭から煙が出そうだった。

 マコちゃんに合う女性とはどういう人なんだろう、どうあるべきなんだろう、なんてね。

 でも、きっと才色兼備な女性が理想的なのかなと、周りの先生方、じゃなくて、プロフェッショナルな家族の様子を改めて見てみたの。

 そうしたら、みんながみんな輝いて打ち込んでいた。

 真剣な眼差しで、努力を惜しまず、妥協は決してしない。

 小さいわたしには、憧れて余りある存在たち。

 そしてマコちゃんとの事情をみんなに相談したら、快く協力してくれた。


 目標に向かうわたしと、みんなの期待に応えることに快感を覚えるわたし。

 相乗効果ってやつで、どんどん成長して行く自分が気持ちいいくらいだった。


 本当は、合気道は辞めてもいいと思っていた。

 けれど、いざ「辞める」っておじいちゃんに言ったら、「真に美しい女性とは、凛々しさも必要であるから、合気道は続けるべきじゃ」とわたしの心を擽り、結局続けることにしたんだ。


 勉強はお兄ちゃんに、ピアノはお母さんにみっちり叩き込んでもらった。

 自分に力がついてくるのを体感し、問題があれば乗り越えて、成果として得られたものは快感に変わる。

 せっかくだから欲張って、何でもかんでも自分のものにしてやろうと意気込んだ。


 もちろん、容姿にも磨きをかけたわ。

 わたしの髪はお母さんやお姉ちゃんと同じ、漆黒のような黒色。

 短髪だった髪の毛を大事に伸ばし、腰元にかかるくらいになった。

 お姉ちゃんも協力してくれたお陰で、自慢の艶々でサラサラな髪。


 さらに表情の作り方や日々のケアをしっかり教えてもらい、お姉ちゃんみたいなモデルさんになった気さえした。

 お母さんやお姉ちゃん譲りのつり目が、『女の子っぽくない』とコンプレックスだったはずなのに、言われたとおりに表情を作ってみると、見違えるほど美人になった。

 もともと素材は良かったのだから、お父さんとお母さんに感謝だね。


 そんなこんなでここまできて、今はマコちゃんが帰ってくるのを『羽化を待つセミ』のようにじっと待っている。あーあ、いつまで待てばいいのやら。

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