注文の多い料理店に行ってきた

みなかた

注文の多い料理店にいってきた

宮沢賢治に捧ぐ


2人の海外セレブ気触れおじさんが、最近金持ちで流行しているハンティングを嗜もうと、2匹の犬を連れ、山に入っていた。ちなみにその犬についてだが、セレブハンターはゴールデンカムイのレタラ(白いエゾオオカミ)に憧れを持っていて、ペットショップで大きい白い犬を探したものの、結局そこにいたジャックラッセルテリアが可愛かったのでそれを購入した。恐らくジャックラッセルテリアを飼ってブイヨンと名付ける糸井重里タイプのおっさんだろう。

山奥に入ってだいぶ経った頃、狩猟の成果もなく、またその森の奥深さから感じる徒労感で2人の男はだいぶ参っていた。

「あー、もう、新品のアークテリクスがベチョベチョだ。ゴアッテクスで7万もしたのに。」

「おれのモンクレールのアウターもぐしゃぐしゃだよ、19万もしたのに。」


そうこうしているうちに、2人の男は本当に迷子になってしまった。

もともとおしゃれぶってやっているだけで山の知識もない2人であって、山での遭難など初めてであり、空腹にも参ってしまっていた。

さんざ適当に道選びをして下っているのやら登っているのやらの状態でいくと目の前に、


RESTAURANT

西洋料理店

WILDCAT HOUSE

山猫軒


と店の札がでていた。卑しい2人はもう大喜びで、

「こんなところにレストランなんて。もう腹が減ってたまらなかったんだ。なにか食べられるだろうか。」

と話した。入り口には、


   「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。」

   「殊に大食い大歓迎」

と金文字で刻まれていました。2人は二郎系の大ファンで大食いの文字に目がなく、鼓動が高鳴った。

さっそく扉をあけ入っていくと、今度は壁に黄色の文字で


   「当店は注文の多い料理店ですからどうかそこは御承知ください」


と書いてある。2人の男は、えっと、これは...あれだな...と感じた。

また扉を開けると、今度は赤い文字で


   「客様方、ここで髪を整え、履き物の泥を落としてください」

   「鉄砲と弾丸をここへ置いてください」とある。


2人は、あ、やっぱりこれ完全にあれだな、あの宮沢賢治の....と感じた。そして蒼い顔になった2人はひそひそ声で

「これはやっぱり、みやざわけんz...だよな。だとするとどうする、あの話だと扉は閉まって後戻りできないはずだよな...どうする?どうするよ。」

「うーむ、これは。腹を決めていくしかない。そうだ、言いなりになったふりをしておこう。そして戦える準備をしておこう、覚悟を決めておこう...」

として鉄砲などをおいて土間を上がっていった。


そして、どうにか覚悟を決め進んでいくと今度は黒い文字で


「どうか帽子と外套と靴をお取りください。浴衣と紙パンツをご用意してあります。」


とあった。これにも従い、2人は紙パンツと浴衣を羽織った。また、


「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、とがったものなどはみんなここに置いてください」


と書いてある。見ると個別ロッカーが備わっていた。またトイレが設置されており、トイレに入ると、


「保湿クリームなどをアメニティとしておいてあります。どうぞご自由にお使いください」


と書いてある。もう益々アレだな...と2人は思っていった。完全に食われる系のアレだな、と。


そして、ロッカー室を抜けると


「料理はもうすぐできます。15分とお待たせは致しません。すぐ食べられます。」

「よろしければミストシャワーをお浴びください。隣室には各国のソルトをふんだんに用意いたしました塩サウナがありますので是非ご利用ください。」


とあった。2人は「これはもう完全に宮沢賢治の注文の多い料理店やん、塩まぶされるアレやん」と思った。そこで2人の男は、

「おい、いいか、あの物語だとたしか次の扉をあけると化け物が出てくる。ここはやってやるしかない。」

「そうだな、よし。あ、そうだ、浴衣をフェイクに使おう。バサッと浴衣をなげて、目くらましをして一気にぶつかるぞ。...いち、に、さん、それ...」

震える弱気な心を以てして、どうにか踏み込んだ。


バタンっ!


刹那、舞い上がる浴衣、紙パンツの男、響き渡る悲鳴。

………


「お客さん、困るよ!!!!」


満員の客席を通り抜け、店主の怒号が響き渡り、はたとその2人の男は気づいた。

「あ、これ、本当にお客の多くいる注文の多い店だ!!」


後日譚。

食べログにて。

H.N. ジャックラッセルテリアしげさと

山猫軒 (岩手県山奥) … 5点満点中 5点

いやー、はるばる行ってきました、山猫軒さん。素晴らしいスパ付きのレストラン。なんといっても素敵なのは店長さん。ぼくたちうっかり紙パンツいっちょで客間にいってしまったのですが、店長さんの温情措置でなんとか無事に済み、おいしい料理に舌鼓を打ちました。満点あげちゃいます。あ、つねに満員のお店なので予約していくといいですよ☆


END

参考文献

宮沢賢治 「注文の多い料理店」 @青空文庫

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注文の多い料理店に行ってきた みなかた @soydesarraigado

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