尻に敷かれるくらいがちょうどいい
【ファムSIDE】
「撃てー」
合図と同時に大砲から砲弾が発射される。
「私が守るんだ」
手のひらをギュッと握りしめてドラゴンを見据える……。あれっ? ドラゴンの背中の一部が一瞬光らなかった?
「ねえフレイヤちゃん、今一瞬だけどドラゴンの背中が光らなかった?」
あの光り、転移魔導のような光だったような……。
「特に何も気がつかなかったですけど?」
そういってフレイヤちゃんは首を傾げているけど、何処かで見たような気がする……。
「あっ……」
私は思い当たることがあったのでフレイヤちゃんに此処を任して、私は一人で屋敷に戻ることにした。私の考えが正しければ、きっと彼がドラゴンと一緒に帰ってきたんだ……。
もしかしたらさっきのハトに何か書かれていたのかもしれない……。
「早く屋敷に戻って確認しなくちゃ!」
門を下りた私は屋敷にむかって走り出すのだった……。
屋敷を出て、門にむかって走っていると大砲の砲撃の間隔がまるでドラゴンの出方を確かめるかのように長くなっている。
「たぶんファムさんかフレイヤのどっちかが気づいて確認をするためかな? 急いで合流しないと」
そういって走っていると前から革で出来た鎧を着た女性が走ってこっちに向かってくる。
「ファムさん」
そういうと革の鎧を着た女性は足を止めて俺のことを見つめてくる。
「旦那様!」
彼女は目元を拭い、怒った顔で駆け寄ってくる。
「いったいどれだけ心配をかければ気が済むんですか! 遅くなるって連絡がきて、待っていたら北東の方向からドラゴンが現れたって聞いて……。もしかしたら旦那様に何かあったのかもって思って……。本当に、本当に心配していたんですよ!」
駆け寄ってきたファムさんは俺に抱きつき、涙を流しながら俺を睨みつけてくる。
「ごめん、一応ハトに手紙をつけて飛ばしたんだけど、読む時間が無かったか……。それより、門に戻って攻撃を止めよう。ドラゴンの背中にはフレイも居るんだよ」
そういって俺はファムさんの手を取り、一緒に門にむかって走ることにした……。
「なるほど、そんなことがあったんですね? 分かりました。全軍砲撃止め」
門にたどり着き、フレイヤに事情を説明すると彼女は直ぐに攻撃を停止させて『訓練終了』と言って片付けを始めた。
『えっ、コレって訓練だったんですか?』『大規模な訓練だったんだね』『ドラゴンって本物だよね? どうやって?』など様々な声が聞こえたが目立った混乱はなく、みんなそれぞれ家に帰っていく。
「それじゃあ俺は一度フレイたちを迎えに行ってくるね」
そういってファフさんの背中に貼っておいた紙で出来た簡易式の魔法陣に転移する。
「ただいま、やっぱりファムさんが手紙を見てなくて早とちりしたっぽい……。ごめん」
俺は頭を下げて謝るとピラトゥスさんとファフさんは笑いながら『それだけ君のことが心配だったんだね? 愛されてるじゃん♪』と言ってニヤニヤしていた……。
その後、俺達は屋敷に降りて荷物を降ろした後ファフさんは人の姿になって食事にすることになった……。
「よーしっ、今日は腕によりをかけて調理するよ!」
そういってフレイはキッチンにむかっていって、その様子を見ていたフレイヤは心配になったのかフレイの後をついていってしまった。
「赤ちゃんですか? 触ってみても良いですか?」
ファムさんは興味深そうにピラトゥスさんのお腹を見つめている。
「勿論いいですよ♪ 貴方が彼の奥さんなのよね? 夜は……」
意気投合したのか、女性陣は何やら『恥ずかしいです』や『きゃぁーっ』など喋っている。
「子供が生まれると母親って強くなるって聞きますけど、実際のところどうなんですか?」
ファフさんに疑問に思ったことを聞くと彼は遠くを見つめるように『うん、そうだよ……。僕も彼女に子供が出来るまで強かったはずなんだよ……。だけど今は主夫って感じになっちゃっているよね……。たぶん君にも分かる時が来ると思うよ』そういって悲しげな顔で肩を叩かれた……。
ファフさん曰く、『夫婦円満の秘訣は妻の尻に敷かれる程度が丁度いい』らしい……。
「お待たせ! 今日は仔羊のローストだよ!」
そういって出来上がった料理をフレイが持ってくるころには夕方になっていた……。
「それじゃあ、新しくこの街の仲間に加わったファフさんとピラトゥスさんの新しい生活を祝して、乾杯!」
そういってグラスを掲げるとみんなも『乾杯』と言ってグラスを掲げる。
「一人で死霊達が居る洞窟に行ったんですか!」
ピラトゥスさんから話を聞いたファムさんが俺のことを睨みつけてくる……。
「そそっ、『一人じゃ無理だぁー』って言って体のいい断りを入れようと思ったんだけど……。彼、予想以上に頑張っちゃって……。だから仕方なく友好関係を結んで此処に引っ越してきたの!」
やめて、やめてピラトゥスさん! ファムさんの顔が……。顔が阿修羅になってきてる!
「旦那様、あとでお話があります。部屋で正座して待っていてくださいね♪」
はい、説教確定! 彼女が起こると怖いのは彼女のお父さん(魔王様)で実証済み……。
俺が死んだ魚のような瞳をしていると俺の右むかいに座るファフさんが申し訳なさそうに頭を下げていることが分かったが、こればっかりはどうにもならん……。
フレイもフレイヤに呼び出しをくらっていたので彼女もきっと説教されるのだろう……。
申し訳ないことをしてしまった。
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