フェンリル

「居た」

 最奥の部屋を確認すると中に司祭のような恰好のゾンビが居た……。リッチーは生者に対する執着心が強く、人・魔獣・神獣・さらには同族の魔族に対しても攻撃を仕掛けてくるため見境なしのチャラ男もしくはビッチと呼ばれている……。

 リッチーは生者を感知する能力も長けていて……。

「ヤベッ、見つかった」

 【隠蔽】を使用していても見つかる確率の方が高い……。

 俺の存在に気づいたリッチーは周りに居たボーンナイトやボーンビーストに指示を出して俺に突撃させてくる。

 量が多いうえ連携が取れていて質も高い、駆け出しの冒険者は骸骨だから弱いと油断し餌食になることが多い……。

「魔力を半分以上持っていかれるけど俺一人じゃ正直キツイ……。喚ぶか……」

 俺は全神経を集中させ魔法陣を発動させる。

「出てこい【フェンリル】」

 そう叫ぶと魔法陣から白い狼の毛皮を纏った少女が現れる。

「ご主人、私まだ眠いです。おやすみなさい」

 そういって帰ろうとするので血が少し出る程度に指を切り、血を一滴だけフェンリルの口の中に垂らす。

「怠けるなフェンリル、働け」

 そういうとフェンリルは『やだぁー、血の代償を使うなんて酷い! ブラックだ! ゆっくり休ませろぉー』と言いながら立ち上がりフェンリルの意思とは関係なく身体が勝手にボーンナイト達を殺していく……。


「魔力だけ食って帰ろうとするお前が悪いんだ! だから俺の血を飲ませて働いてもらう羽目になったんだろ! お前の責任だ」

 そういうとフェンリルは悔しそうな顔で『そうなんだけどさぁー、血の量と戦闘の質が比例してないんだよ』と叫んで巨大な白狼になる。

「お前、本気出すのいつも遅すぎ」

 そういってフェンリルと一緒にむかってくるボーンナイト達を粉砕していく……。

「私、思うの……。いい加減一緒に戦える友人を作るべきだと思うの!」

 この期に及んで何をほざいているんだ、この狼は……。

「そうすれば私が寝られる時間が増えるでしょ?」

 相変わらずブレないな、ぐうたらフェンリル……。

「ねぇ、チマチマやるの面倒になってきたから派手なの1発ぶちかますね!」

 そういってフェンリルは口を開けて魔力を球状に集め始める……。

「待ってフェンリル……」

 声を掛けた時には既に遅く、魔力が圧縮された球はリッチーに当たると同時に弾けて爆発を巻き起こす……。

「よしっ、お掃除終了!」

「何も良くないわ、どアホ! こんな洞窟の中で爆発なんて起こしたら……。言わんこっちゃない崩落し始めちゃったじゃないか!」

 洞窟の天井部分が崩落し始めてしまった……。

「うーん、でも考えようによってはリッチー達を完璧に殺せたし結果オーライじゃない?」

「全然良くないわ! 最奥の部屋が崩落し始めたせいで他の部屋も連鎖して崩落し始めているじゃんか! どうすんだよ! なんとかしろバカ狼!」

入り口に向かって走りながら隣を走る白狼に文句を言うと白狼は呆れたような目で俺を見つめながら『私になんとか出来ると思っているんですか? 私は戦ったり壊したりするのが仕事、直したり考えたりするのは貴方の仕事です』といって人型に戻り、サムズアップしてくる。

 クソッ、嬉しそうに笑ってやがる……。ここを無事に脱出出来たら、絶対に謝らしてやる……。


「これから天災級の魔導を唱えるから俺の近くに居てくれ、それとたぶん魔力の使い過ぎで倒れると思うから倒れた俺を抱えて洞窟の外に出てくれ……。それじゃあ行くぞ【永久凍土コキュートス】」

 氷で崩れ行く洞窟を凍結させ崩壊を防ぐ……。どうやら無事、崩壊は防げたようだ……。

 あっ、ダメだ……。意識が……。


【シグルド夢】

 何処だ此処? 辺りを確認すると暗く凍てついた洞窟に立っていた……。

「そうだ、ここに神獣が封印されているって聞いて、仲間になってくれないか聞きに来たんだった……」

 俺は奥に続いているであろう道を進んで行く……。

「氷に覆われていて地面が滑るし、寒いし……。こんなところに封印されているとか地獄だな」

 そういって最深部に進むとそこには氷漬けにされた一人の少女が居た……。

「どういうことだ? あの少女が神獣なのか?」

 氷に近づき触れてみる。

「誰? 此処に何をしにきたの?」

 何処からか声が聞こえてくる……。ただ、はっきりと聞こえたわけではなく、頭の中に直接話しかけられているような感覚だ……。

「誰? 何処に居るんだ?」

 辺りを見渡しても人の気配は氷漬けにされた少女しかいない……。

「私よ、わ・た・し・♪」

 声のした方向を見ても、やはり氷の中に囚われている少女しか居ない……。

「この氷って溶かせるのか? 試しにやってみるか【燃やし尽くせ獄炎】」

 氷にむかって思い切り獄炎魔導を放つ……。

「うん、まったく効果が無かったな……」

 氷には傷一つ出来ていない……。

「俺の最大火力ですら傷一つ出来ないってことは何か別の方法があるのか……。例えば選ばれし勇者が手をかざすとか?」

そういって氷に手をかざすと氷に魔力が吸収されていく……。

「なんだよこの氷、魔力が吸われる……。やばい眩暈が……」

 足元がおぼつかなくなり倒れそうになったところを誰かに支えられる……。

「ありがとう」

 そういって目を閉じた……。

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