信用第一

「夫が迷惑を掛けちゃったみたいでごめんなさいね? それで私達と話し合いたいみたいだけど何を話し合えばいいのかしら?」

 隣で怯えているファフさんとは打って変わってピラトゥスさんは物凄い威圧感を放っている。

「話し合いっていうか……。実は俺、この山から少し平地に行った【ガラム・ウップサーラ】の領主なんだよ。だから領民や農作物・家畜とかを襲わないでくれってお願いに来たんだよ。勿論、家畜や農作物の売買はOKだよ」

 そういうと驚いた顔でピラトゥスさんは俺とフレイを見つめる。

「えっ、私達にこの山から出て行けとか殺してドラゴンの骨を武器に加工するとかが目的じゃないの? 戦争中、人や魔族は私達を道具として扱ってきたじゃない」

 そうなのか? 俺は後ろに居るフレイを振り返ると彼女は頷いている。

「マジなのか……。全く知らなかった……。でも俺はそんなことをするつもりは無いし、させるつもりもない。友好関係を結びたいだけなんだ」

 そう伝えるとピラトゥスさんは値踏みをするように俺達を見つめる。

「貴方たちは悪い人ではないと思う、だけど信用出来ない……」

 ピラトゥスさんはそういって周辺の地形が描かれた地図を広げて山の中腹にある洞窟を指差す。

「本当は此処の洞窟が私とファフの家だったの……。だけど2か月前に突然現れた死霊達に占領されてしまったの、私が身籠ったところを狙っていたみたい……」

 利用してやろうみたいな目で見てくるのは止めてほしいのだが……。

「死霊を倒せってわけじゃないよね?」

 大きなため息を吐いてピラトゥスさんとファフさんを見つめる。

「そのまさか、なんだけどお願いできる?」

 テヘペロじゃねぇーんだよ! そんなんで了承出来ると思ってんのかよ!

「いや……、それは」

「やってくれたら仲良く出来るかもしれないなぁー、でないとゆっくり寝られなくてストレス溜まって暴れちゃうかも」

 コイツ、人が下手に出ていれば調子に乗りやがって……。

「それに、その子を殺しちゃうかも……。貴方は不死身かもしれないけど、彼女は違うんでしょ?」

 そういってピラトゥスさんはフレイを指差す……。どうやら俺に拒否権は無いらしい……。

「俺が死霊達を追い払えばコイツの身の安全と友好関係を結ぶことを約束出来るんだな?」

 そう尋ねるとピラトゥスさんは笑顔で頷く。

「正直、骨折り損のくたびれ儲けだけど、領民の命と家族の命が賭かっているからな……。しょうがない、その依頼請けるよ。但し約束は守れよ? じゃないと殺すからな♪」

 そういって笑いかけると彼女は頷いて『約束は絶対に守るわ』といって広げた地図を丸め直して俺に渡してくる。

「一つ確認なんだが、コイツを連れて行ったらダメだよな?」

 そういってフレイを指差して確認をすると『勿論、人質よ』と頷かれた。

「分かった、それじゃあ今から向かうからファフさんに送ってもらいたいんだけどいいか?」

 ファフさんは怯えながら首を横に振っているがピラトゥスさんが頷いたので嫌々ながらも俺を洞窟の入り口まで送ることになった。

 どこの家庭でも、やはり奥さんは偉大で強いことが判明した……。


「そんなに怖がらないでくださいよ……。ちょっと傷つきます」

 ファフさんの背中に乗りながら、そう伝えるとファフさんは『無理ですよ。だって人なのに不死身なんですよ? 下手したら僕、殺されちゃうじゃないですか』といって俺のことをチラチラと確認してくる。

「何もしませんから、普通に飛んでください。さっきから俺のことをチラチラ見ているせいで物凄く危なっかしいです」

 さっきから木や山肌にぶつかりそうでかなり怖い。

「そんなの無理ですよ!」

 ファフさんはそういって洞窟の前に降ろすと飛び去っていってしまった。

「帰り道どうすんだよ……」


 とりあえず洞窟の中に入ってみると入り口から少し歩いたら予想以上に死霊や騎士の骸骨【ボーンナイト】・骨の魔獣【ボーンビースト】がうじゃうじゃ居る……。

「聖魔導で浄化するか塵さえ残らないように天災級の魔導を放つかだけど、俺は聖魔導使えないからなぁー、こんなにアンデッドが居るってことは予想だけど何処かに不死王(リッチー)が居るはずだからソイツを探し出して殺そう」

 方針が決まったので闇魔導【隠蔽ステルス】を唱えてボーンナイト達の中を掻い潜るようにすり抜けていく……。

 洞窟の奥にむかいながら走っていくと最近までファフさんやピラトゥスさんが住んでいたと認識できる食器や竈があった……。

「もしかしたらコレ必要になるかもしれないな……」

 俺は、いくつか必要そうな物をバッグに詰めて索敵を続ける。

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