山小屋
「んんっ……」
目を覚ましたのか瞼を擦っている。
「いきなり気絶したから心配したぞ、大丈夫なのか?」
そういって顔を覗き込むとフレイの顔がみるみる赤くなっていく。
「ご主人様、どうして俺をお姫様抱っこしてるんだ? その、恥ずかしい……」
なるほど、だから顔が赤かったのか……。
「ごめん、でも馬から落ちそうだったから……」
そういうとフレイは恥ずかしそうに『ありがと』といって自分の馬に乗り直した。
「ご主人様、ここからしばらく行くと山の手前に山小屋があります。煙が出ていたので誰か居ることは分かったので、そこで一晩泊めてもらいましょう」
そういって俺のことを見つめてくる。
「どうしてこの先に山小屋があることが分かったの? 周りは木ばかりで何も見えないはずなんだけど?」
そう尋ねるとフレイは自身の魔導について話してくれた。
「なるほど、そんな魔導があったんだ……。ねぇ、今思ったんだけど、仮に小屋があって人が居るとして、そこで【シンクロ】を解除して平気なのか? 下手したら小屋に住んでいる人死なないか?」
不思議に思い尋ねるとフレイの顔が青ざめていく……。
「ヤバい、ヤバいよご主人様! 早く行かなきゃ!」
どうやら失念していたらしい……。
「ここから、見つけた山小屋までどのくらい?」
そう尋ねるとフレイは少し考えて
「あと半日くらい」
山小屋が心配になった……。
馬を走らせ、フレイが見たという山小屋に着くと地面一帯が血で染まっていた。
「俺がこんなところで【シンクロ】を解除したばっかりに……」
そういってフレイは泣き出してしまう。
「フレイ、この血の量はどう考えても多いと思うぞ? それに、もし仮に何人も人が死んだのなら肉片が落ちていてもおかしくない、なのに地面が血で染まっているだけで何も落ちていない……。たぶん死んだのはインフェルノグリズリーの方だと思う」
まさかインフェルノグリズリーが負けるなんて……。
「そうなのか? なら良かったなのか?」
フレイは首を傾げながら山小屋の玄関をノックする。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか? 道に迷ってしまって……。一晩泊めてほしいのですが」
フレイが玄関のドアを叩きながら尋ねるとドアが開き男性が現れる。
「こんな山奥で……。大変でしたね」
そういって家にあげてくれたけど彼にはトカゲの様な爬虫類の尻尾が生えていた……。
「あらっ? お客様?」
そういって女性が顔を出してきた。
「ちょっと、妊娠しているんだから安静にしていてよ」
男はそういって女性の背中を押しながらリビングにむかうので俺達は彼らの後を追ってリビングに入る。
「彼ら、道に迷っちゃったみたいで一晩泊めてほしいんだって……。大丈夫だよね?」
そういって男性が女性に尋ねると女性は疑うような目で俺達のことを見つめてくる。
「どうしてこんな山奥に来たんですか?」
明らかに疑っている……。
「ここには薬草を採取しにきたんです。実は私【ガラム・ウップサーラ】で調薬所を営んでいてアララト山にしか生息していない貴重な薬草があるので助手と一緒に採取に来たんです」
そういって調薬用のすり鉢や試験官を見せる。
「調薬師の方だったんですね! ここ最近盗賊や山賊が山に現れると聞いていたので、てっきりその類かと……」
盗賊や山賊が現れるなんて聞いていないけど……? 不思議に思いながら笑っていると隣に居るフレイが俺にしか聞こえないような声で『街を出る前に調薬所に寄ったのはそういうことだったんですね』と呟いていた。
どうやら彼らはここで自給自足の生活を送っているらしい……。
「私はファフ、彼女はピラトゥスです」
そういってファフさんはお茶を淹れて持ってきてくれた。
「ありがとうございます。俺はグラム、彼女はレイです。泊めていただきありがとうございます」
身分を隠すため、偽名を教える。
「いえいえ、私達は俗世から離れて暮らしているので、魔王軍と人が和睦したことを知らなかったので教えてもらってよかったです」
そういってピラトゥスさんがお腹を摩りながら俺達を見つめてくる。
「赤ちゃんですか?」
フレイがピラトゥスさんのお腹を興味津々で見つめている。
「触ってみますか?」
ピラトゥスさんがそうフレイに尋ねるとフレイは頷いておっかなびっくりといった様子でピラトゥスさんのお腹を触ると驚いた顔で俺を手招きしてくる。
「動きましたよ! 凄いですね!」
そういって嬉しそうにニコニコしている。
「赤ちゃんは可愛いわよ、貴女も彼と作ってみたら?」
ピラトゥスさんがフレイに笑いかけるとフレイは顔を真っ赤にして俺のことを見つめてくる……。ダメだぞ、俺にはファムさんが居るんだから……。
「今日は彼と同じベッドにしてあげるから頑張ってね!」
変な気を使わないでくれ、正直かなり困る……。
「ご飯の用意が出来ました。今日はお昼、家の前に居たインフェルノグリズリーのステーキです。いやぁー一人で狩るのは大変でした」
インフェルノグリズリーってもしかしてフレイが【シンクロ】をしていたインフェルノグリズリーか? それを彼一人で……。
「あなた達ラッキーね! インフェルノグリズリーは美味しいのよ!」
そういってピラトゥスさんは嬉しそうにステーキを食べていく。
「お二人もどうぞ、冷めちゃうと硬くなっちゃうので熱いうちに」
ファフさんにナイフとフォークを手渡され、フレイは嬉しそうに食べ始める。
「旦那さんもどうぞ、美味しいですよ」
出された料理を無碍にするわけにもいかないので恐る恐るインフェルノグリズリーのステーキを一口大に切り、口に運ぶ。
魔獣、しかも爪や内臓に毒を持つ生き物の肉がこんなにも美味しいなんて驚きだ……。
「どうかな? 妻よりは下手なんだけど上手になったと思うんだ」
そういってファフさんは恥ずかしそうに俯きながら尋ねてくる。
「美味しいです! インフェルノグリズリーって食べることが出来たんですね! 初めて食べました」
そういってフレイは親指を立ててファフさんに微笑む。
「えーぇっ、そうかな? 火を通し過ぎだと思うんだけどなぁー」
ピラトゥスさんは、不服を言いながら出された料理をゆっくりと咀嚼していく。
「そっかー、やっぱりピラトゥスみたいには上手くいかないかぁーっ、でもきちんと身体のことを考えて作っているんだよ? だから野菜もしっかり食べてね♪」
そういってファフさんはピラトゥスさんの目の前にサラダボウルを差し出す。
「えーぇっ、私サラダいらない」
そんなことを言うピラトゥスさんの口に笑顔のファフさんが無理矢理入れていく……。
その姿を見ていた俺達は自分たちで野菜を盛りつけ、肉と一緒にバランス良く食べた。
「どうしようかしら、お客さん用の布団なんて用意していないのよね……」
困った様子でピラトゥスさんがファフさんに尋ねている。
「あっ、大丈夫ですよ。私達は床で寝ますので」
そういうとピラトゥスさんは俺の顔を見つめた後、首を横に振って一組の布団を差し出してくる。
「ダメよ、あなたは良いかもしれないけど下になる彼女のことを考えなさい。大丈夫、私達は直ぐに寝るからナニをしても気づかないと思うから」
そういって親指を立ててウインクをしてくるけど、絶対に誤解しているよな……。
とはいえ、こんなにも良くしているのに断ると逆に怪しまれてしまうかもしれないのでフレイと相談した結果、一緒の布団で寝ることにした。
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