第3章 季節は移ろう

 領主として

 クズ王のところに行ってから三カ月経った。そのあいだにクズ王からの使者という名目で服装がダサい金髪の兵隊長が菓子折り付きでやって来たり、ノルンウェルムの村民が震えながら謝りに来たりしていた……。

「シグルドさん、街の北東にインペリアルドラゴンの巣が見つかったんです。被害は今のところ無いんですけど、これから繁殖期になって凶暴になるのでそれまでにどうにか出来ませんか?」

 ここ最近はこういう風に領主としての仕事が増えてきた……。

「分かった、どうにか出来ないか、行って確かめてくる」

そういって俺は魔王さんから貰った細剣【レーヴァテイン】を腰にぶら提げて玄関を出る。

「腰に剣なんか提げて、どこにお出かけですか?」

 心配そうな顔でフレイヤが尋ねてくる。

「インペリアルドラゴンが街の北東に巣を作ったみたいだから、ちょっと話に行ってくる」

 そういって行こうとすると服の裾を掴まれてしまう。

「ファムさんにきちんとお話はしましたか? このあいだのヴェノムヴァイパーの時も無断で出かけて1日帰ってこなくてファムさん、かなり心配して一睡もしなかったんですからね? 今回はきちんとお話をしてから行ってください」

 フレイヤが何処からかモーニングスターを取り出して、笑顔で構えている。

「あんまり心配をかけたくないんだよ……。だからこのまま行ってくるよ」

 そういうとフレイヤが引きつった笑みを浮かべてモーニングスターの鉄球を振り回している。

「私の話、聞いていましたか? 何も言わずにいなくなる方が心配でしょうが! 鈍感すぎますご主人様は!」

 そういってフレイヤは俺の足元に鉄球を振り下ろしてくる。

「分かった、分かったから笑顔で鉄球を振り下ろさないでくれ!」

 俺は回れ右をして温室にむかうことにした。


「ファムさん居る?」

 そういって温室に入って声を掛けると奥の方から声が聞こえる。

「どうしたんですか? また何かあったんですか?」

 ジョウロを持ったファムさんが不思議そうな顔で尋ねてくる。

「今、山のふもとで暮らしているエルフのエルミアさんからインペリアルドラゴンの巣が出来たって報告があったから確かめに行ってくる」

 そういうとファムさんは心配そうな顔で俺のことを見つめてくる。

「一人で大丈夫ですか? 少し心配ですけど、分かりました。気をつけていってらっしゃい」

  そういって送り出してくれた。


【ファムSIDE】

 まったく、あの人は……。でも誰にでも優しく出来て、時には厳しくする。誰にでも出来そうだけど実は一番難しいんだよね。私なんか軍隊が来た時、あれがお母さんやお姉ちゃんを犯して嬲り殺した軍隊の人間かって思って、思わず軍隊の人たちにむかって殺戮さつりく魔導を放とうとしていたもん……。

「良いんですか?」

 そういってフレイヤちゃんが温室の扉を閉める。

「うわぁっ、気づかなかったよ……。良いんですかって何が?」

 そう尋ねるとフレイヤちゃんは温室の扉を指差す。

「インペリアルドラゴンを退治にむかいましたがドラゴンは魔獣とは違い、神獣といって、もしかしたら私達よりも強い存在なんですよ?」

 そういって私のことを見つめてくる。

「心配してないって言ったら嘘になるけど、シグルド様は絶対に約束を破るような人じゃないので何があっても帰ってくるから大丈夫です」

 そういって私はジョウロを持ち上げようとすると倒してしまった……。

 手が震えてる……。大丈夫、シグルド様は絶対に……。


「尻が痛いな……」

 馬に乗り慣れていないせいか尻が痛い……。

「それなら転移魔導を使えば良かったんじゃないか?」

 護衛&お目付け役として付いてきたフレイが俺を見つめてくる。

「それが出来たら楽なんだけどな……。転移魔導は一度行った場所じゃないと転移できないんだよ」

 そう伝えるとフレイは頷いて『便利そうだけど実は不便なんだな』といって隣を進んで行く。

「ここからだと途中で一泊するけど、どこでするかが問題だよな……。山の中でってなると毒蟲や蠍が出るかもしれないから野宿は避けたいよな」

 そういうとフレイは何か呪文を唱える。

「ご主人様、ちょっとのあいだ俺の身体をお願いしますね」

 そういってフレイは気を失ったのか落馬しそうになってしまったので馬を寄せて彼女の身体を支える。


【フレイSIDE】

 私は憑依魔導【シンクロ】を用いて渡り鳥の身体を使い、目的地の山【アララト】の方角を確認する……。

 山の麓から煙が上がっていることから何かがあることは分かったが家なのかは分からないので私は地面を走る狼にシンクロする。

「嘘! この狼、インフェルノベアーに追われてるじゃん!」

 この魔導【シンクロ】もいくつか欠点があってシンクロ先の魔獣や人を変える時、数分のインターバルがあり、そのあいだはシンクロが出来ないのだ……。しかもシンクロした状態でシンクロしている生物が死んでしまうと術者も死んでしまう……。俺ピンチ!

「食べても美味しくない! 美味しくないからこっち来るな!」

 インフェルノグリズリーにむかって吠えるけど止まる気配が全く無い……。

「狼の言葉だから理解してくれないよな!」

 ヤバいヤバい! 向こうの方が速い! 【シンクロ】【シンクロ】【シンクロ】

 俺は必死に走りながらインフェルノグリズリーに【シンクロ】出来ないか試すがまだ出来ない……。

 足元にあった木の根っこに気づかず、俺は転んでしまった……。ヤバい、終わった……。インフェルノグリズリーが追いつき、俺を殺そうと前足を振り上げる。

「【シンクロ】」

 どうやら俺の悪あがきは成功したようだ……。

 振り上げた前足を降ろして狼にむかって吠えると狼は尻尾を巻いて逃げていった。

 インフェルノグリズリーに憑依した俺は煙の上がっていた方に歩みを進めると山小屋があった……。

 このことを早くご主人様に伝えなくては! 俺は【シンクロ】を解除する。

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