君は一人なんかじゃない

「下等生物どもに告ぐ、今すぐ門を開け投降しなさい、でなければ私の魔導が火を噴くことになるでしょう」

 戦争は終わっているのに何を言っているんだ?

「先日、我が領民が食糧を差し出すように言ったにもかかわらず理解できなかったのか、お前たちは一切食糧を差し出さなかったから私自ら来てやったのだ」

 いきなり来てウザいな、この金髪男……。しかも今どき、ひだ襟に赤いシュールコーだなんて……。ダサい。

「そこのお前、私を見て何を笑っているんだ! 愚民にはこの服の良さが分からないんだな? 可愛そうに……」

 うん、理解出来なくて良かったって思うよ。

「お前は一見人に見えるが、そちら側に居るということは【不死者アンデッド】だな? 私の聖なる魔導で浄化してやる【聖光ホーリーライト】」

 生きている人には一切効果ないからこのままでも問題ないんだよな……。

「何故だ、何故私の聖なる魔導が効かないんだ!」

 生きているから……。人だから……。とりあえず反撃しようか……。先に条約を破ったのは向こうなんだから……。クズに手加減はする必要ないよな?

「【燃やし尽くせ獄焔】」

 そう詠唱すると門と兵士たちの間に黒い炎の壁が現れる。

「はーいっ、兵士の皆さんは命が惜しければ、その炎に触れないでくださいね? 俺が敵と認識した相手は灰になるまで燃やし尽くすからね」

 そういって門の上から話しかけると何人かの兵士が俺の姿を見て驚いている。

「隊長、あの白髪の男は……」

 どうやら俺の存在に気づいた兵士が金髪男に報告する。


「そんなはず……」

 驚いた様子で見つめてくるので俺は邪悪な笑みを浮かべて、手を振って応える。

「撤退! 撤退だ! 悪魔、悪魔の子が居るぞ!」

 そういって男は兵士に囲まれ、後退していく……。

「次来たら首と胴体が離れるからねぇー」

 そういって撤退していく軍隊に手を振ると兵士たちは怯えながら撤退していった。


「スゴイ……」

 門に集まった領民と魔王さんは俺の対応を見て驚いている。

「向こうから条約を破ってきたんだから問題ないですよね? ちょっとクズ王に文句を言いに行くので義父さんは俺と一緒に来てくれますか?」

 そう尋ねると魔王さんは嬉しそうに頷いて俺の肩に手を乗せてくる。

「それじゃあ、ちょっと行ってきます」

 そういって俺と魔王さんは転移魔導でクズ王の城に移動する。


「どういうことだ?」

 転移と同時に玉座に座るクズ王の首元にダガーナイフを突きつける。

「だっ、誰だお前は! どうやってここに入った!」

 そういってクズ王はゆっくりと何かを取ろうと手を伸ばす。

「状況を理解しているのかな? 動くと首と胴体が離れちゃうよ?」

 本気だと分からせるためにダガーナイフの刃で首元を少し斬りつけ血を出させる。

「わっ、分かった、話を聞こう」

 そういってクズ王は両手をあげて無抵抗の意思を表したように見えたが、両手をあげたと同時に俺の手を取り押さえようと腕を掴んできたのでダガーナイフでクズ王の喉を貫いた。

「動くなって、言ったのに動くんだもん……。王女の命を生贄に蘇生してあげよう」

 そういって王女を連れてきて彼女を生贄にクズ王を蘇生させる。

「動くなって言ったよね? 君が動いたせいで間違って殺しちゃたじゃん……。君を蘇生させるために命を差し出してくれた王女様に感謝してね」

 目を覚ましたクズ王に地面に転がる王女の首を見せる。

「貴様、貴様よくも我が娘を……」

 そういって俺に跳びかかろうとしてくるので再度、喉を貫く……。

「いい加減、学びなよ。お前の生殺与奪は俺が握っているってことを……。次は王子が贄になってくれるよ」

倒れ逝くクズ王にそう伝え実行する。


「おはようございます。クズ王……。次は奥さんが犠牲になるから動かないでね♪」

 転がっている王子の首を見たクズ王は泣きながら俯き、反抗する気持ちは潰えたようだ。

「これから俺が聞く質問に本当のことを話してください。まず1つ目、魔王領 ガラム・ウップサーラに進軍する指示を出したのは貴方ですか?」

 そう尋ねると彼は『そうだ、最北の村 ノルンウェルムの村長から魔族に襲われたと連絡があった、先に手を出して条約を破ったのは魔族側だ!』といって俺に跳びかかってきたため反射的に喉を貫いてしまった……。


「あのさぁ、ちゃんと落ち着いて話し合えば、こんなに犠牲が出なくて済んだのに……。これはお前のおこないのせいで死んでいった人達だからな?」

 蘇生させたクズ王の髪の毛を持ち俯いている顔を無理矢理上げてクズ王の奥さんの死体を見せる。

「よくも、よくも妻を……」

 そういって暴れようとするので取り押さえる。

「あっ、最初から椅子に括り付ければ済んだんだ……」

 今頃気づいても仕方ない、尋問を続けよう……。

「どうして国民たちに魔族は隷属したって嘘を吐いた? そのせいでノルンウェルムの人たちは私の領地 ガラム・ウップサーラに食糧を強奪しにきたんだぞ? もしこのまま嘘を貫き通し、誤解した人たちが我が領地を脅かすなら戦争も辞さないと思っている。その時はお前を真っ先に殺しに来る。どうする?」

 クズ王にそう伝えると彼は『本当のことを国民に伝える、だから家族を助けてくれ』そういって助けを求めてくる。

「分かった、助けてやろう。ただ、最後に一つ確認したいことがある。ノルンウェルムの住人に勇者の家族を殺すように扇動したのはお前たち王族か?」

 最後に聞きたかったこと、それはコイツら王族が勇者の家族を殺せと扇動したのか……。

「そうだ、私が勇者の家族を殺すように扇動した、アイツが家族が心配で魔王退治に行けないと言うから不安を取り除いてやったんだ」

 その言葉を聞いた俺は思わずナイフを突き立てようとするが背後に立っていた魔王さんに手を掴まれ、何も出来ない。


「怒りに身を委ねてはいけないよ……。君は私に止めてほしくて連れてきたんだろ?」

 そういって死んでいるクズ王の奥さんや王子たちを蘇生し、足元の魔法陣を発動させ転移してしまう……。

「悔しいよな? 悲しいよな? 私はそんな思いをもう誰にもさせたくなくて和睦の申し入れを承諾した。それなのに君が私情に駆られて彼を殺してしまうと一度治まったはずの戦争が再び始まってしまう……。君には酷なことを言うかもしれないけど彼が居ないとこの平和は長く保てないんだ……」

 背中に立たれ、顔は分からないのだが涙声で魔王さんは俺の頭を撫でてくる。

「頭では分かっているんです。だけど心のどこかでそれを許せない自分が居るんです」

 そういうと魔王さんは頷き、俯いていた俺の顔を両手で挟み、上げさせる。

「大丈夫、君には帰りを待っていてくれる、私の娘やメイドたちが居る。君を支えてくれるマーニやフリッグといった友が居る。一人で抱えきれないなら皆で協力し合えばいい、君は一人じゃないってことを覚えていてくれ」

 上げた視線の先には涙を流しながら駆け寄ってくるファムさんや泣きながら抱き合うフレイヤ姉妹、安心したような顔で見つめてくるマーニさんやフリッグさん達が居た。

「ただいま……」

駆け寄ってくるファムさんを迎え入れるため腕を広げて抱こうとすると

「心配かけすぎです! バカ!」

と言われキスの代わりにパンチが飛んできた……。油断していた俺は見事、後方に飛ばされる……。

「あっ、加減を間違えちゃった」

 暗かった場の雰囲気は一気に爆笑の渦に包まれたのだった……。

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