虫の知らせ

「おはようございます。起きてくださいシグルド」

 目を開けると一糸纏わぬ姿のファムさんが俺を見つめて微笑んでいる。

「おはよう、ファムさん……。大好きだよ」

 そういってキスをするとファムさんは嬉しそうに微笑んで自分のお腹を擦って

『昨日はいっぱい愛してもらいましたから……。孕んでいると嬉しいです♪』と言って抱きついてくる……。今、抱きつかれると色々とマズいような気が……。

『私も愛しています。お風呂に入って、食事をして正装に着替えましょう。今日は頑張ってくださいね♪ 私の愛しい旦那様♪』

 そういってファムさんはベッドから立ち上がり室内着に着替えて部屋を出て行ってしまう。

「どうすればいいの、このモヤモヤ感!」

 そう言いながらベッドでゴロゴロして悶えていた……。

 お風呂に入り、正装に着替え、食堂に行くと朝食が用意されていた。

「お父様は先に広場に行ってマーニさんと打ち合わせをしているみたいです」

 ファムさんは、そういってトーストにバターとイチゴジャムを塗って頬張る。

「そうなんだ……。俺も早めに行った方が良いのかな?」

 そう声を掛けるとフレイヤがトーストとサラダが盛り付けられたお皿を運んでくる。

「そのことなんですが、魔王様から言伝を預かってます。『ゆっくりでいいよぉー』だそうです」

 そういってフレイヤは俺達に料理を配膳をして壁際に佇む。

「二人も一緒に食べようよ」

 立っている二人を呼び寄せて、四人一緒に食事を済ます。


「それじゃあ行こっか♪」

 時間になったので正装に着替えた俺達四人は屋敷を出て広場にむかった。

「ねぇねぇ、俺もこんな格好しなくちゃいけないのか? スカートって、なんだかスゥーッてして正直、着たくないんだけど……」

 そういってフレイがスカートの裾をひらひらさせている……。

「フレイ、みっともないから止めなさい、それと俺じゃなくて私でしょ?」

 そういってフレイヤが注意をするとフレイは俺の背中に隠れて『姉さんが怒る、助けて』と言って抱きついてくる……。

 対応に困り、苦笑いをして誤魔化そうと前を向くとフレイヤが怒った顔で俺を見つめてくる……。

「ご主人様が毅然とした態度を取らないからフレイがつけあがるんです。もっとしっかりしてください」

 何故か俺に飛び火した……。

「おっ、みんな着いたね♪」

 声のした方向を見ると燕尾服を着た魔王さんが居た。

「私が先に行って皆を紹介するからその後に出てきて」

 そういって魔王さんは控室用に用意されたテントから外に出て行った……。(歓声が凄いな……)

「さすがお父様ですね……」

 ファムさんは歓声を浴びるお父さんの姿を見て驚いている……。

 

「ここの領主を任せる男を皆に紹介したい、来てくれ」

 俺は呼ばれたのでテントから出て、魔王さんの隣に立つ。

「初めましての人が多いと思います。シグルド・ファタール 同胞からは【狂気的殺人鬼】とか【ラピッドブレイバー】と呼ばれていて、魔族からは【慈悲深い白髪の死神】って呼ばれているみたいだ……。これからよろしく頼む」

 そういって頭を下げると『死ね』や『滅びろ』といった声が聞こえる。まぁ普通の反応だよな。

 そう思いながら顔をあげようとするとテントの方から誰かがやって来る。

「彼のことを何も知らない人が見た目や噂だけで悪口を言わないでください」

 そういってファムさんが怒った顔で叫びながら俺と魔王さんの隣に現れる。

「えぇーっ、私が説得する前に出てきちゃうの? ……でも、娘のファムが言っている通り見た目や噂だけで彼を……。いや、私の義理の息子をとやかく言ってもらいたくない」

 魔王さんまで何で熱くなっているんですか! あぁーっ、どうやって収拾をつかせよう……。

「二人とも落ち着いてください。ちょっ、呪文唱えようとしないで! フレイヤ、フレイ手伝って」

 そういうとテントの中から二人が現れてガヤガヤ騒いでいる魔王さんとファムさんを引き摺ってテントに戻っていく。

「はぁっ、俺のことはどう思ってもいいけど、彼女達のことは悪く思わないでくれると嬉しいな」

 そう伝えると同時に大きな音がする……。

「陸閘の方から音がしたよね? どうしたんだ?」

 嫌な予感がしたので挨拶を終わらせて門の方へ向かう。

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