貴方だけを見つめている

【フレイヤ&フレイSIDE】

「どうしたの姉さん?」

 頬を膨らまして袋を抱えた姉さんがキッチンにやって来た。

「何でもない、ご主人様が二人で食べてって」

 そういって紙袋を渡してくる。

「いや、姉さん絶対何かあったでしょ? 顔が怖いよ」

 そういうと姉さんは私の頬を両手で挟み『うるさい口は、この口かなー?』と言って邪悪な笑みを浮かべている……。

「まったくご主人様は……。あんなこと言われたら退くしかないじゃん! あぁーっ、もうっ私が口で負けるなんて悔しい……。けど家族だって言ってくれたのは嬉しい……。なんだか複雑な気持ち」

 あぁっ、きっとご主人様と何かあったんだろうな……。私が怒っている姉さんに何か言っても八つ当たりされるだけだから、おとなしくドーナッツ食べていよう……。あっ、この蜂蜜でコーティングされてるドーナッツ美味しい!

「フレイはいいよね何も考えなくて、お姉ちゃんの私がいつも何とかしてるから」

 うぅーん、今日は一段と面倒そうだなぁー……。

「私はメイドとしての仕事をしようとしていたのにクドクド……」

 長くなりそうだ……。『ご主人様のバカ』と心の中で叫びながら姉さんの愚痴に相槌を打っていた。


「そういえば、何で桔梗とひまわりの種にしたの?」

 花壇に種を植えながらファムさんに尋ねると彼女は恥ずかしそうに理由を話してくれた。

「ひまわりの花言葉と桔梗の花言葉って知ってますか? ひまわりは『貴方だけを見つめる』『愛慕』『崇拝』桔梗は『永遠の愛』『誠実』『清楚』『従順』なんです。二人で一緒に植えるので意味がある物が良いなと思って……。ひまわりは私の気持ちで桔梗は二人で育んでいきたい気持ちや思いを込めて選びました……。重いですよね」

 落ち込んだ様子で俺の顔を見つめてくるので俺はファムさんに近づき、抱きしめる。

「嬉しい、1度失ったものがまた手に入るなんて……。俺もファムさんの事を同じくらい好きだよ……。重いかな?」

 そう尋ねるとファムさんは首を横に振って『シグルド様を好きになって良かった、大好きです』と言って涙を流しながら、ギュッと抱きついてきてキスをしてくる。


【フレイヤ&フレイSIDE】

 ドーナッツありがとうございましたって伝えようと思って来てみたら二人の世界を作っちゃってるよ……。お礼は後で言えばいいかな?

 そう思い、その場を立ち去ろうとすると後ろからフレイが背中を押してくる。

「ほら姉ちゃん、ちゃんとお礼と家族って言ってもらって本当は嬉しかったって伝えるんでしょ! 今更怖がらないで」

「違う、違うんだよ! バッ……」

 フレイの力に負けて私は転びながら温室の扉を開けてしまった。

 ご主人様達は固まったまま私達を見ている……。

「ご主人様、ドーナッツありがとう! 美味しかったよ」

 それ、この状況で言うの! 状況をよく考えて! 

「そっ、そっか……。そんなに喜んでもらえるなら買ってきて正解だったよ……」

 うわぁぁぁぁぁぁぁーっ、ご主人様達の顔、凄い真っ赤だよ……。怒ってるのかな? それとも恥ずかしがってるだけ? 私、どうすればいいの?

「ご主人様、フレイヤが伝えたいことがあるんだって! 聞いてあげて!」

 フレイ、空気読んで! 今っ? 今言わなくちゃいけないの? えぇぃっ、こうなりゃ自棄だ、言ってやる!

「ドーナッツありがとうございました! それと私達を家族みたいって言ってくれて嬉しかったです」

 そういうとファムさんがご主人様のことを少し怒った顔で見つめている。そうだよね、家族って言ったのファムさんより私達の方が先に言われてたんだもんね……。今、このことを言うタイミングじゃなかったんだよ。フレイのバカ……。

「なんだ、改まって話すから何かと思ったけどそんな事か……。本当にフレイヤはしっかりしてるよね? 俺とファムさんの子供が出来たら、しっかり者のフレイヤが長女で次女が少し抜けているけど、要領の良いフレイが居るから甘えん坊になりそうだな」

 なるほど、私達は娘なんだ? 歳、ファムさんと2・3歳しか変わらないんだけどな? あっ、ファムさんが急に笑顔になってる……。たぶん誤解が解けたみたい……。

「じゃあ、ご主人様じゃなくてパパとママ?」

 そういうことじゃないフレイ! えっ、何でご主人様達は胸を押さえて悶えてるの? ちょっ、期待した目でこっちを見ないでください……。

「言いませんよ? とっ、とりあえず、それだけです!」

 そういって私はフレイを退かして起き上がり、その場から走って離脱する……。物凄く恥ずかしいよぉーっ!


「待ってよ、姉さん!」

 顔を真っ赤にして走っていくフレイヤの後を追ってフレイが俺達にお辞儀をした後、走っていってしまう。

「行っちゃったね」

  そういって腕の中に居るファムさんに話しかけると彼女は顔を真っ赤にして頭から湯気が出ている。

「大丈夫? 熱?」

 そういって顔を寄せるとファムさんは身体をビクッとさせて『ダイリョウブでふゅ』と言って俺から離れようとしてくる。

「いやいや、明らかに大丈夫じゃないでしょ? 舌、廻ってないよ? ベッドに行こう?」

 そういってファムさんをお姫様抱っこで抱きあげると手足をバタつかせて暴れだしてしまう……。

「嫌、なのかな? もしかして迷惑だった?」

 抱きかかえているファムさんに尋ねると彼女は恥ずかしそうに俺を見上げて小さな声でぼそぼそと何かを呟く。


【ファムSIDE】

嫌じゃないです! 嫌なはずが無い! 大好きな人にお姫様抱っこされているんですよ! ただ、とてつもなく恥ずかしいんです。 さっきのフレイヤさん達との会話で子供って単語が出て、ベッドに行こうって言われてお姫様抱っこですよ! 今日の下着、大丈夫だったかな? ちゃんと上下ペアになってるかな? どうしよう、まだ心の準備が出来てないよぉー! でもそんなこと言えない……。だったら……。


「明かりは消してください」


 暗くしちゃえば、もし下着の上下を間違っていてもバレないはず! 

 私はそういってシグルド様の服をギュッと握る。

 私の気持ち、気づいてくれるかな?


『明かりは消して』って声が聞こえて顔を真っ赤にして顔を逸らされてしまう……。もしかして、そういうことなのか? でも違ってたらどうしよう……。幻滅させちゃうかな? もうっ、どうすればいいんだよ!

「分かった、部屋の明かりは消すね?」

 言っちゃったよ! 良いんだよね? 間違ってないよね? どう返事をすればいいのか正解が分からないよぉー

 部屋に着くまで、二人とも顔を真っ赤にして何も話さなかった……。沈黙が辛すぎる。


 部屋についてファムさんをベッドに寝かせて明かりを消すとファムさんが【シャドウ】という暗闇を作りだす魔導を唱える。そして暗闇の中、服の擦れる音が聞こえる。

「いいですよ……」

 何がどういう状況なんだ、やっぱりそういうことだったのか! えっ、俺どうすればいいの? いいのかな? 良いんだよね?

『準備が出来ました……。いつでも大丈夫です。でも、初めてなのであまり激しくしないでください……』

 そんなファムさんの恥じらう声を聞いて、俺の中の何かが切れてしまった……。

 その後、どれだけ求め合ったのか覚えていないが【シャドウ】の効果が切れた部屋から見た空は、いぶし銀の様にぼうっと明るくなっていた……。

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