良いことも悪いことも全部君と一緒なら
「ファムさん、どこー? ブドウの苗を買いに行くから街に行こうよ」
そういってファムさんを探していると後ろから目隠しをされる。
「だっ、だーれだ……」
恥ずかしそうな声で尋ねてくるなら止めれば良いのに……。
「ファムさんですよね? 一緒に買い物に行きませんか?」
そういうと彼女は目隠しを外してくれたので振り返るとそこには茹でダコの様に真っ赤な顔のファムさんが居た。
「可愛いよファムさん」
そういって頬にキスをすると『ひゃっ』と短く叫んだあとフリーズしてしまう……。後ろから目隠しされるし『旦那様と一緒に居られるだけで幸せです』なんて言ってドキドキさせられた仕返しは出来たかな?
そんなことを思いながら彼女と手を繋いで買い物に行きことにした。
「ブドウの苗って市場で買えるのかな? やっぱりちゃんとした専門店とかに行かないと買えないのかな?」
隣を歩くファムさんに歩きながら尋ねると彼女は立ち止まり、地面に絵を描き始める。
「今の場所がここだから、種苗のお店は時計台のある南地区だから……」
そういって俺に道順を説明してくれるのだが……。
「ファムさんが先導してくれれば良いんじゃないかな?」
そういうとファムさんは首を横に振って頬を膨らませる。
「女の子は、いつだって好きな男の人に引っ張ってもらいたいんです。だから覚えてください」
そんなこと言われたら覚えるしかないじゃん! 俺はファムさんの期待に応えるために道順をしっかりと覚えて、彼女の手を引いて種苗店にむかうことにした……。
「ごめん、結構迷ったね……」
何度か道を間違えたがようやくお店に着いた。
「旦那様と一緒ならどんなことでも楽しくなるので退屈しなかったので大丈夫です」
そういって笑顔で俺を見つめてくる……。
「そうだね、頭の上からトマトが落ちてきたり、家の外壁を高圧洗浄機で洗っていたおじさんに洗われるし……。終いにはペンキで左半身黄色になったからね……。本当に何があったんだよ……」
そういうと隣でファムさんがクスクス笑っている。
「本当にビックリしましたよ、次から次に何か起きるんですもん。でも悪いことの後にはきっと良いことがあります。元気出してください」
そういうとファムさんは種苗店に入っていく……。
「そうなら嬉しいんだけどね……」
そう呟いて店に入ると『パンッ!』とクラッカーの音がする。
「おめでとうございます! お客様が当店5万人目のお客様です。本日のお買い物は全て半額にさせていただきます」
嬉しいような悲しいような何とも言えない気持ちになったがファムさんを見ると俺の視線に気づいたのかウインクをしてくる。
俺は半額券を受け取って、ファムさんと一緒にブドウの苗や肥料、ライチの苗や桔梗の種など余分な物も色々買いこんでしまった……。
「いっぱい買えましたね♪」
嬉しそうに笑いながら桔梗の種や月下美人の種といった細かいものが入った袋を抱きしめながらファムさんは俺の後ろをついてくる。
「こんなに買ったのに予算をオーバーしていないとは……。あのお店大丈夫なのか?」
そう呟いて財布からお金を取り出してクレープを買う。
「はい、あーん」
そういってファムさんの口元にクレープを差し出すと彼女は頬を赤くさせながらクレープを一口頬張る。
「おっ、美味しいですけど少し恥ずかしいです」
そういって照れながら微笑む彼女を見て、俺はこの笑顔を守りたいと思った……。
「ただいま、帰ったよ」
屋敷の玄関を開けて中に入るとフレイヤが奥から出てきた。
「おかえりなさい、魔王様はまだ帰って来ていません。お荷物持ちます」
そういってファムさんから花の種が入った袋を受け取り温室に向かっていく。
「フレイヤ、ドーナッツ買ってきたからフレイと一緒に少しゆっくりしなよ、俺とファムさんは温室で花の種を植えているからさ」
フレイヤから花の種の入った袋を取り上げて、代わりにドーナッツの入った袋を手渡す。
「いえ、ダメです。ドーナッツは夜、仕事が終わってからフレイと一緒にいただきます。今は仕事です」
そういって俺が取り上げた袋を取り返そうと手を伸ばしてくる。
「俺はフライヤとフレイのこと家族だと思ってる、働き過ぎている家族に休んでって言うのはおかしなことなのかな? それとも二人は俺達のこと何とも思ってなかったの?」
そういうとフレイヤは頬を膨らまして俺のことを睨んでくる……。
「もぅっ、そんなこと言われたら断れないじゃないですか! もういいです! ちゃんとフレイと一緒にドーナッツ頂いてきます」
そういってフレイヤはキッチンにむかっていった。
「それじゃあ植えようか!」
俺とファムさんは手を繋いで温室にむかった。
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