魔族蕩し
【ファムSIDE】
私の膝の上で眠るシグルド様は、また何か嫌な夢を見ているのか顔をしかめている。
「大丈夫です。私が居ます」
そういって私は眠っているシグルド様の手をそっと握った。
【シグルド夢】
生温かく、ヌルヌルした感触がする……。
「あんたは人じゃない……。化け物ヴぉっ……」
俺の視線の先には首から上の無い格闘家と身体にいくつもの刺された跡があり、白かった聖女の服が赤く血の色に染まっている。
俺は格闘家の首を切り落とし、聖女の腹を掻っ捌いていた。
「化け物か……。あながち間違いではないかもな……」
だって俺は
「信じられるのは己のみか……。もう誰も信用できない」
そう呟くと俺の視界に映る景色が歪み、暗転する。
「ありがとうございました」
目を開くとそこには、真っ赤な髪の毛の少女が、返り血を浴びて真っ赤になった俺に怯えず、持っていた白いハンカチで俺の顔に付いた血を拭っている。
「怖くないのか? 俺はお前たちの仲間やコイツらを殺したんだぞ?」
そういって少女を見つめると、彼女は頷いて、テキパキと返り血を浴びた俺の顔を拭いてくれる。
「全然怖くないって言ったら嘘ですけど、だけど怖くはないです」
彼女はそういって綺麗になった俺の頬にキスをしてくる。
「どうしてキスをしたんだ?」
不思議に思い、少女に尋ねると少女は少し困った顔をして俺を見つめながら『お兄さんは本当は優しい人なんですよね? さっき軍人の方たちを斬りつける時、泣いていましたよ? それなのに私達を助けるために人を殺させてしまって……。すみませんでした』と言って涙を流していた。
「泣かないでくれ、俺は俺のやるべきことをしただけだ……。それに、女の子は笑っている顔の方が素敵だぞ? それじゃあ俺は行く……。君も早くこの街から立ち去ったほうが安全だぞ」
そういって俺が歩き出すと少女が俺の手を握ってくる。
「また逢えますか?」
そういって俺のことを見上げてくる。
「縁があれば、また逢えると思うぞ? 平和になれば俺達が夫婦になる可能性だって0《ゼロ》じゃないぞ? それじゃあな」
そういって握られた手を解き、歩き出す。
「絶対お兄さんのお嫁さんになります。私、ファムって言います。お兄さんは?」
「シグルドだ……。それじゃあな」
振り解いたはずの手がまだ温かい……。
「まったく、俺はあんな少女に何を言っているんだ……。バカが……」
そういうと同時に手の温もりが広がり辺りが明るくなっていく……。
「おはようございます。旦那様」
目の前には、あの時の少女が大きくなって俺の妻になっている。
「おはよう、もしかして結構な時間寝ていたのかな?」
顔を擦ろうと腕をあげようとするとファムさんと手を繋いでいたことに気がついた……。
「小一時間ほど眠っていました。昨日よりはうなされてなかったですけど、それでも悲しい夢を見ていたのか涙を流していたので心配だったので手を握らせていただきました」
そういってファムさんは俺を見つめて微笑んでくる。
「あっ、起きたんですね? とりあえずお茶を淹れてきました。飲みますか?」
マーニさんがコップに入ったウーロン茶を渡してくる。
「ありがとうございます」
受け取ったウーロン茶を飲んで姿勢を正す。
「そんなに畏まらないでください。シグルドさんは領主で従業員を救ってくれた恩人なんですから! それよりも、今日はどうして急にウチを見学しにきたんですか?」
ファムさんにウーロン茶を渡しながらマーニさんが尋ねてくる。
「簡単にいうと、『この領地を任されたけど何も分からないので、とりあえず領地一の稼ぎ頭のところに来た』っていうのが本音だね」
そういうとマーニさんは笑って俺とファムさんの向かい側の椅子に座る。
「そっか、それなら此処に来たのは正解ですよ! 一応、私がこの【ガラム・ウップサーラ】の商工会の会長なので!」
そういって分厚いファイルをテーブルに置く……。
「これは何?」
不思議に思い尋ねるとマーニさんは笑いながらファイルを開き、中の書類が見えるように渡してくる。
「今までの商工会の広報誌と議題書と議事録?」
そう尋ねるとマーニさんは頷いて書類を指差す。
「ここにシグルドさんが知りたいことが書かれていると思うよ、今日1日貸し出してあげるから確認していいよ」
そういって微笑んでファイルを渡してくる。
「さっきまであんなに怯えていたのにいきなりどうしたのかな?」
隣に座るファムさんに尋ねると彼女は笑いながら俺が寝ていた時の会話を教えてくれた。
「私は、人間が領主にしかもその人間が【白髪の死神】だって聞いて正直かなり怖かった……。人間達との戦いで敗れた私達サキュバスは、性奴隷として売られていたから……。だけどシグルドさんは違った。領民の私達に何かを命じるわけでもなく、友人として接してくれた、だから私達もシグルドさんを領主として、1人の友人として接しようと思ったの」
ファムさんが俺が寝ている間のことを教えていることに気づいたのか、マーニさんは恥ずかしそうに話し始める。
「要するに、旦那様は
ファムさんはそういって頬を膨らまして何故か不機嫌そうにしている。
「そんなこと無いって……。ねっ?」
マーニさんに同意を求めるが顔を逸らされてしまう……。
「それじゃあ、知りたいことはファイルの書類に書いてあるみたいなので帰ってからゆっくり読みましょう」
そういってファムさんが腕に抱きついてくる。
「抱きついてくるのはどうしてなのかな?」
腕に抱きつかれた状態でファムさんに尋ねると彼女は頬を膨らまし、俺の腕を抱きかかえたまま工場を飛び出してしまった。
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