魔王は直球

「うぅっ……。めっちゃ痛かった」

 屋敷を探索することを止めて、地下の大浴場から食堂に戻り、殴られた頬とお腹を冷やす。

「ごめんなさい、でっ、でも浴場に入ってきたご主人様も悪いんですからね!」

 それを言ったら札を立てなかったフレイと確認をしなかったフレイヤが悪いのでは……。

「っていうか、何で一緒に入っちゃいけないの? 別にいいじゃん?」

 下着姿で腕に抱きついてこないでもらえませんか? 柔らかい双丘の感触が腕に当たるんですけど……。

「旦那様の手当ては私がするので、二人は旦那様から離れてください」

 そういってファムさんが氷嚢を頬に当ててくる。

「3人共、大丈夫……。大丈夫だから、まずは服を着させてくれ!」

 俺の叫び声は虚しく宙に舞った。


「もう、お婿に行けない……」

 見られた、すべてを見られてしまった……。

「そんなことは、気にしなくても大丈夫です。だって旦那様はもう既に私の伴侶です。お婿さんです」

「そうだけど、そうなんだけど、そういうことじゃないんだよ! 裸の姿をじっくり隅々まで見られて恥ずかしいんだよ!」

 隣で紫のネグリジェを着て寝ているファムさんにそう伝えると彼女は不思議そうに俺のことを見つめてくる。

「何をそんなに恥ずかしがるんですか? 私達は夫婦です。それに今後、肌を重ねる相手の裸を見るぐらいで特にどうとも思いませんよ?」

 うぅーん、そういうものなのだろうか? 親以外で裸を見られるのは初めてのことだから、どういった反応が正しいのか俺は、いまいち分からない……。

「それよりも、どうしてお父様が私達の寝室に居るんですか?」

 そういってファムさんは、俺とファムさんの間で寝ようとしている魔王さんを睨みつけている。

「えっ、そんなどうしって、って言われても……。心配だったから? 結婚は許したけどお父さん、子作りを許したわけじゃありません!」

 うわぁーっ、魔王さん、そんな直球で言っちゃうの……。ファムさんが、顔を真っ赤にしてるよ?

「おっ、お父様のバカァーッ! 部屋から出ていってください!」

 ファムさんがそう叫ぶと寝室に竜巻が起こり、魔王さんは竜巻と一緒に屋敷の外へ飛んでいった……。

「もう寝ます! おやすみなさい!」

 顔を赤くしたままファムさんは毛布に包まり背中を向けて眠ってしまったので俺も明日に備えて眠ることにした……。


【ファムSIDE】

 お父様のバカ! あんなこと言うから余計意識しちゃったじゃないですか! それにシグルド様もシグルド様です! どうして本当に何もしてこないんですか!

「もぅーっ、シグルド様の鈍感!」

 そういって私は隣で眠る、シグルド様の鼻を摘まむ。

「フゴッ」

 そういって口をパクパクさせているので少し可愛いなと思いながら指を放してシグルド様を抱き枕にして私も眠ることにした。


 朝、目が覚めると身体が動かせなかった……。原因はファムさんだ! 彼女が俺を抱き枕と勘違いしているのか放してくれない……。

「大好きです。シグルド様……。もう絶対放しません」

 嬉しいけど、起きられない! お願い起きてファムさん!

「起きてファムさん、朝だよ♪」

 そういって声を掛けるが全く反応が無い。

「嫌です。シグルド様がいいんです!」

 余計抱きしめられたんだけど……。どうしよう……。

「うぅーん……。ふぁぁーっ……」

 諦めかけていたが、どうやら目を覚ましてくれたみたいだ……。

「起きて、起きてファムさん」

 そういって俺は改めて声を掛けると彼女の瞼がうっすらと開いていく。

「ふぇっ?」

 瞼が開いた彼女はキョロキョロと辺りを見回す。そして俺に抱きついていることに気がついたのか顔がみるみるうちに赤くなっていく。

「ごっ、ごめんなさい! 私、昨日の夜から抱きついていたみたいで……。って違う、違うの! 確かに昨日の夜『抱き枕使いたいなぁ』とは言っていたけど、シグルド様に抱かれて寝たいなぁーとか子作りしたかったなぁーとか思ってないです! 誤解です。全部誤解なんです」

 そういってファムさんはとびおきると部屋を出て行ってしまった……。

「失礼します。ご主人様、奥様が顔を真っ赤にして部屋から飛び出してが喧嘩でもなされたのですか? もしそうなら、差し出がましいかもしれませんが謝るなら、ご主人様から謝った方が良いかと思います」

 そういってフレイヤが心配そうな目で俺のことを見つめてくる。

「いや、喧嘩じゃなくて、その……」

 俺が、どう答えればいいのか迷っていると何かに気がついたのかフレイヤが温かい笑みを浮かべて『昨日はお楽しみでしたね♪』と耳元で囁いて部屋から出て行ってしまう。

「誤解だぁーっ!」

 俺は誰も居ない部屋で枕を口に当てて、叫んで部屋を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る