わざとじゃない

【フレイヤSIDE】

 まったくフレイのバカ……。人が気を利かせてご主人様のカップに惚れ薬を入れておいたのに、それをフレイが飲んじゃうなんて……。

「それにあんなに気に喰わないって言ってたのに深層心理では、ご主人様を誘惑しちゃうほど好きみたいだし……。あぁーっ、もうっ! 私が手回ししたってバレちゃったかな……。どうしよう」

 そういって私の腕の中で『ご主人様ぁーっ、フレイのことしゅき? チューひて♪』と唇を突き出してくるフレイの顔を押し退けて、私は溜息を吐く。

「どうしよう、この娘?」

 とりあえず私は、フレイを落ち着くまで部屋に寝かせておくことにした。


「あっ、あったよ! たぶんこの鍋が今日の夕飯なんじゃないかな?」

 そういって鍋の蓋を開けると、そこにはハヤシライスのルーが出来上がっていた。

「今日ハヤシライスみたい、今から温め直すからテーブルで待ってって」

 そういって俺は鍋を火にかけハヤシライスのルーを温め直す。

「ただ待っているのは悪いです。旦那様が鍋でルーを温めてくれるなら私はお皿にご飯を用意します」

 そういうとファムさんは食器棚から、お皿を取り出して慣れた手つきで盛り付けていく。

「ただいま戻りました」

 そうこうしているとフレイヤが1人でリビングに戻ってきた。

「おかえり、フレイヤも一緒に食べようよ、それとフレイは大丈夫だった?」

 そう尋ねるとフレイヤはバツの悪いような顔で俺を見つめたあと、困ったような笑顔で頷いて『ご主人様には不快な思いをさせてしまったかもしれません、フレイには、きちんと注意しておきます』と言っていた。


「意外……」

 恐る恐る食べてみると味はきちんと調えられていて、かなり美味しく出来ている。

「美味しい……」

 姉のフレイヤが驚いているので、それだけ珍しいことなんだろう……。

「ファムさん、また明日、街を見て回りたいんだけど、ついてきてくれる?」

 ファムさんに尋ねると彼女は頷いて微笑んでくれる。

「そういえばフレイがキラーモスは食べないのか? って聞いてきたけど、ファムさんやフレイヤは虫を食べるのとか抵抗はないの?」

 そう尋ねると二人は頷いて

「抵抗が無いと言えば嘘になりますけど、郷に入れば郷に従えです。それにいざ食べてみると味は鶏肉みたいで美味しいですよ。たぶん問題なのは見た目だと思うので、それさえなんとか出来れば美味しく食べられますよ」

 ファムさんは笑ってそんなことを言っているが、あの見た目をどうにか出来るのだろうか?

「私は【アルフヘイム】で暮らしていた時は生きるのに必死だったのでネズミでも蛙でも食べられる物はなんだって捕まえて食べていましたね。たまに稼いだお金でパンとかですかね? 普段は狩っていましたね」

 聞いた相手が悪かった、俺も此処で暮らすのだから食べられるように努力しよう……。

「ご主人様、この魔導具の使い方を教えていただきたいのですが……」

 食べ終えた食器をシンクに持って行ったフレイヤが食器洗浄機を指差して尋ねてくる。

「そういえばフレイも魔導オーブンレンジを使って、爆発させていたな……。あとでフレイにも使い方を教えてあげて、それじゃあ説明するね」

 そういって魔導具の特徴や性質、魔力の供給の仕方など、魔導具についての必要最低限の知識を説明した。


「分かりました。魔導具の使い方は、ひと通り覚えたのでフレイにもあとで教えておきます」

フレイヤは、聞いたことを手帳にまとめて『フレイがそろそろ目を覚ますと思う』と言って頭を下げ、部屋に戻ってしまった。

「さてと、屋敷の中をきちんと把握していないから少しぶらぶらしてくるね」

 そういって俺は屋敷を探索することにした。


 食堂を出て、右に曲がり暫く進むと温室に続く扉と地下に続く階段があったので地下に向かうと地下は大浴場になっていた。

「うわぁっ、デカい」

 浴場は屋敷に住む4人が一緒に入っても充分スペースが余るぐらい大きな浴場だ……。

 浴場の奥にはサウナとジャグジーも完備していたので俺は一度部屋に戻り、着替えを持って浴場に引き返すと一糸纏わぬ姿のフレイヤとフレイが居た……。

「きゃぁーっ! ちょっ、何で入って来ているんですか! 入浴中って札をフレイに頼んで扉に提げておいたじゃないですか!」

 慌てた様子でフレイヤが俺を見つめた後、タオルを身体に巻き付け、俺に下半身を隠すように言ってくる。

「無い! そんな札は、提げられてなかったから!」

 そういって俺は目をつぶるとパタパタとこっちに向かってくる足音が聞こえる。

「あれっ? どうしてご主人様が居るの? あっ……」

「フレイ、『あっ』ってなに? もしかしてフレイ……」

「ごめん姉さん! 札を提げ忘れてた! ごめん」

 どうやら俺の責任では無いようだ。

「ごめんじゃないわよ! 私、裸をご主人様に見られちゃったじゃん!」

 そういって怒るフレイヤの足音が聞こえる。

「ちょっ、姉さん……。止めて! 怒らないで! 助けてご主人様!」

 足音が2つ、こっちに近づいてくる……。

「フレイ、ちょっと待ちなさ……」

「ねっ、姉さん!」

 俺は誰かに押し倒され、腰が柔らかな感触に包まれる……。

「いっ、痛い……」

 目を開けるて腰を見ると裸の2人が抱きついていた……。

「みっ、見ないでくださぁい!」

 俺が目を開けて2人を見ていたことに気がついたのかフレイヤが顔を真っ赤にして自身が使っていたタオルで目隠しをしてくる。

「何かいい匂いがする……」

「ご主人様のバカァッ!」

 フレイヤに頬とお腹を思いっ切り殴られてしまった……。

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