デュラハン姉妹

「それじゃあ、私は頭を取ってきますね? 旦那様は彼女が起きたらきちんと謝っておいてください」

 そういってファムさんは二階にあがっていってしまった。

「俺が悪かったのか?」

 疑問に思いながらも俺は気絶している男の子をソファーに寝かせて、コーヒーを淹れる。

「うっ、うぅーん」

 ソファーを見ると上半身を起き上がらせて辺りをキョロキョロと見回す男の子が居た。

「起きたか? さっきは申し訳なかった……。でも、玄関のガラスを割ろうとするのはどうかと思うぞ? コーヒー淹れたから飲むか?」

 そういってマグカップにコーヒーを注いで持って行くと男の子は胸元を隠すように自身を抱きかかえると何故か俺のことを睨みつけてくる。

「確かに殴って気絶させたけど、そこまで警戒しなくてもいいだろ?」

 持っていたマグカップを男の子の前に置いて、俺は自分のマグカップでコーヒーを飲む。

「お前、触ったのか?」

 何のことを言っているんだ?

「気絶した君を此処まで運んだのは俺だよ? だから君にも触れたけど……。何かマズいことをしちゃったかな?」

 そう尋ねると男の子は顔を真っ赤にしてコーヒーを飲み干し

「変態! 気を失ってるところを触ってくるなんて……。だから男は嫌なんだ!」

「いや、そういうお前も男だろ?」

 何を言っているんだコイツは? まるで自分が女だって言っているみたいじゃないか……。

「お前、何か誤解をしているだろ! 俺は女だ!」

 へっ? 俺が驚いた顔で男の子だと思っていた女の子を見つめていると2階からファムさんがメイドの女の子の顔を持って、降りてきた。

「だから言ったじゃないですか【彼女】って……。確かにパッと見、男の子に見えましたけど肌の質や僅かながらの胸の膨らみで女の子だって分かりますよ」

 ファムさんは、そんなことを言っているけど、ごめんなさい……。一切わかりませんでした。

「もぅーっ、ダメだよ。フレイ! この人達が私達の仕えるご主人様達なんだから」

頭を身体に戻したメイドの少女がそういって俺とファムさんを見つめて挨拶をする。

「初めまして、私はデュラハンのフレイヤと言います。私達を救ってくれた魔王様の命により、今日からこのお屋敷でメイドとして働かせていただきます。何かありましたら、お申しつけください」

そういってスカートの裾を摘まんでお辞儀をしてきた。

「姉さん、何でこんな奴らに頭を下げるんだよ! 俺達の方が強いじゃん! 親の七光りの魔王の娘に人間だろ? こいつらを殺して俺達が領主になれば良いじゃん!」

 結構過激なことを言うな、この少女は……。

「いや、そのお兄さんは【慈悲深い白髪の死神】って呼ばれている元勇者様ですよ、フレイ」

 その言葉を聞いた少女は顔を青くして俺のことを見つめてくる。

「ごめんなさい、殺さないでください! まさか噂の【白髪の死神】だとは思っていなくて……。なんでもするので殺さないでください!」

 魔族の間でどんな噂が流れているんだよ……。俺、そんな怖がられる様なことを……。うん、していたな……。しかもかなり……。

「大丈夫だよ、そんなことしないから……。それよりも、魔王さんから此処で働くように言われたみたいだけど一体、どういうこと?」

 怯えている女の子【フレイ】に問いかけると彼女はビクビクしながら話し始める。


「俺……。じゃないや、私と姉さんは戦争孤児で最前線の町【アルフヘイム】で盗みを働いていて食い繋いでいたんだ……。1週間前に魔王様とは会って『この屋敷に住み込みで働いてみるか?』って聞かれたから私達はそれを承諾して此処で働くことにしたんだけど、魔王様がこの屋敷に住む住人を倒すことが出来たら領主にしてくれるって約束してくれたから戦争孤児で住む場所や食べる物がなかった私達は二人でお前たち、じゃなかった……。貴方達? を倒して住む場所と食糧、それと領主という地位を手に入れようと思っていました。だけど無理です! 私達がどう足掻こうと天変地異が無い限り勝てません! なので、普通に住み込みで働かせてください!」

 そういってフレイは頭を下げて、お願いをしてくる。

「私からも、お願いします。フレイが変なことをしないように見張るので私達を雇ってください!」

ファムさんの隣に居た、姉のフレイヤもそういって頭を下げてくる。

「どうしますか?」

 ファムさんに尋ねると彼女は頷いて親指を立てて、俺を見つめてくる。

「大丈夫みたいなので貴方達姉妹を雇います。でも、雇うからにはしっかり働いてもらうからね」

そういって姉妹を見つめると彼女達は少し困った顔で頷いていた。


「ご主人様は虫料理苦手なんですか?」

 厨房に立ったフレイが食糧であるキラーモスが備蓄されていないことに気がついたのか不思議そうに俺のことを見つめてくる。

「無理、無茶、キモイ」

 そういって首を横に振って、食べないことを伝えると『美味しいのに』と言って残念そうな顔でフレイが俺の顔を見つめてくる。

「そんなに残念そうな顔をするなよ……。俺は食べないけど、食べたいなら買って食べていいから……。とりあえず、俺は食べたくないから」

 俺は厨房のフレイにそう伝えて、俺は温室に向かうことにした。

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