出会いとデュラハン

「そういえば旦那様、体調はもう大丈夫なのですか? いきなり倒れてしまったので私、驚いてしまいました」

 そういってファムさんは心配そうな顔で俺のことを見つめてくる。

「うぅーん、多分大丈夫だよ? 天災級の魔導を連発しちゃうと魔力が急激に減っちゃって魔力の欠乏症を引き起こしちゃうんだよ……。俺の場合は、欠乏症の副作用で思い出したくない過去を鮮明に思い出しちゃうんだよね」

 苦笑いをして隣を歩くファムさんを見つめると彼女は真剣な顔つきで俺のことを見つめてくる。

「無理に笑わないでいいんです。悲しい時は泣いてください。感情を押し殺していると感情が無くなってしまいます。夫婦なんですから支え合っていきましょう」

 そういって俺の正面に立って、抱きついてくる。


「旦那様は、私との出会いって覚えていますか?」

 俺に抱きついてきたファムさんは、そういって俺の顔を覗き込んでくる。

「はっきりと覚えているわけでは無いけど、大体なら覚えているよ。確か五年前の魔族最南端にある防衛拠点【ヨトゥンヘイム】で人との戦争で負けて、奴隷として捕虜にされていた魔族を助けた時に居たんだよね?」

 そう尋ねるとファムさんは頷いて嬉しそうにしている。

「そうです。私が捕虜として鎖に繋がれて軍に奴隷として引き渡される時に旦那様が捕虜になっていた私たち魔族を開放してくれたんです」

 そう、あれは五年前、俺がまだ15歳で各地を転々として魔王軍の幹部を倒している時に立ち寄った街で軍隊の人達が無抵抗の魔族を捕虜にして彼らを商品として、競りをしていた。

 その姿を見て、俺は気が付いたら軍人達を殺っていた……。

 助けたはずの魔族にも怯えられ、逃げ去っていく中、赤い髪と青く澄んだ瞳の少女が駆け寄ってきて、持っていたハンカチで返り血を浴びた俺の顔を拭いて頬にキスをしてくれたのを覚えている……。


「あの時は、心が荒んでいて、種族にかかわらず悪は即、斬り伏せていたからね……」

 そのせいで【狂気的殺人鬼】と人々から畏怖されていた時期もあった……。

「でも、そのおかげでこうして夫婦になれたんです。だから私は感謝しています」

 昔のことを思い出し、苦笑いをしていたことに気がついたのか心配そうな顔で見つめて笑いかけてくる。

「ファムさんからしたら、そう見えたのかもしれないけど、俺は私怨で軍人たちを斬っただけだから……」

 そういって俺は恥ずかしくなり、足早に帰っていく。

「そんなことをいうわりには、とても悲しそうな顔をしていましたよね? 私は旦那様がとても優しい人だって知っているんですよ」

 彼女は俺の腕に抱きついて俺の顔をジッと見つめてくる。

「そうだと良いね」

 恥ずかしかったので俺は話を打ち切って屋敷の門をくぐるとそこにはメイド服を着た女性とコック服の男性? が玄関の前で何か話している。


「姉さん、ここで合っているんだよね? 何度もドアをノックしているんだけど誰も出てこないよ? もしかして魔王様、教える場所を間違えた?」

 コック姿の男の子がメイド姿の女の子に尋ねている。

「そんなことは無いと思うよ、魔王様が場所を間違えるはずがないもの……。きっと出かけていて家に居ないのよ」

 そういってメイド服の女の子が頭を持って、空中に自身の頭を投げる。

 魔族だとは予想していたけど、まさかデュラハンだったとは……。

「あっ、もしかしてこのお屋敷の方ですかぁー?」

 空中に投げられた女の子の頭は俺達が後ろに居たことに気がついたのか空中から話しかけてくる。

「ちょっ、危ない!」

 そういったときには時すでに遅し、空中に浮かんでいた女の子の頭は二階のベランダに着地してしまった。

「あれっ? ヤバいどうしようお兄さん!」

 頭の無い女の子の身体が手をパタパタさせて慌てている。

「姉さん、落ち着いて! 俺が今、姉さんの頭を取りに行くから」

「いや、ダメだからね? 鍵は俺が持っているし、勝手に入ったら不法侵入だからね?」

 慌てて玄関を開けようとガチャガチャしているコック姿の男の子の頭を叩きながら伝える。

「そんなの関係ないだろ! 姉さんの顔を何処の馬の骨か分からない男に任せるわけにはいかないだろ」

 焦っているのか俺の方を見向きもせずに、玄関をガチャガチャとしているが諦めたのか玄関先の植木鉢を手に取り持ち上げる。

「それは器物破損だ」

 説得を諦めた俺は男の子に当て身をして気絶させる。

「姉さんを助けなきゃ……」

 そういって男の子は気絶して地面に倒れる。

「旦那様、いくらなんでもやりすぎです。二人とも一旦、中に入ってもらいましょう。この子の頭は私が取ってきます」

 頭の無いメイド服の手を掴んで呆れたような目で俺を見つめてくる。

「ごめん、男の子だから力もあるし玄関壊されると思って……。俺とファムさんの大切な家だから壊されるのは嫌だったから、つい……」

 呆れたような目で俺を見つめいるファムさんにそう伝えるとファムさんは顔を真っ赤にして玄関の鍵を開けて中に入っていく……。何か怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか?

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