街の視察(と称して単なる買い物)

時間は戻り現在、俺は少し遅い朝食を食べている。

「シグルドさんって朝、弱いんですね♪ 可愛いです」

 そういってファムさんは俺のパンを見ながら笑っている。

「どうしてそう思うんですか?」

 そういってパンを一口食べて悶絶した。

「だって、パンにつけていた薄黄色の物はバターじゃなくてカスタードですよ? 甘いですよね」

 俺は頷いて牛乳を飲む。魔族の料理の味付けは塩や胡椒が余り採れなく砂糖や唐辛子が多く採れるため甘い料理と辛い料理がかなり発展していると聞いたことがある。

「甘いですね……。でも食べられるので大丈夫です」

 そういってカスタードクリームをたっぷりと塗ってしまったトーストを少しずつ食べ進め完食する。

「そういえば、此処のこと何も知らないんだよな……。ファムさん、今日は暇かな? もし時間があるなら一緒に街を見に行きたいんだけど……」

 そういうとファムさんは嬉しそうに頷いて服を持ってくる。


「シグルドさん、どっちの服でお出かけに行きましょう?」

 そういって緑のワンピースと白いフレアスカートとピンクのシャツを持ってくる。

「どっちも似合うと思うよ……。正直、服とかインナーは着られれば、なんでも良かったから鎧は性能を見て選んでいたけど服には性能とか無いから」

 そういってファムさんを見つめると彼女は頬を膨らまして寝室に戻っていってしまう。

 何か怒らせてしまうようなことを言ってしまったのだろうか? 俺は罪悪感を抱えたまま風呂に入ることにした。

風呂と言っても俺が住んでいた人間の街とは違い、お湯で湿らせたタオルで身体を拭き綺麗にした後、ボディーソープで身体を洗い、泡を落すだけで、水は貴重なので湯船には入れない。


「シグルドさん、着替えの服を用意しておいたので、その服を着て一緒に街に行きましょう」

 風呂場の外からファムさんの声が聞こえる。どうやら着替えの服を用意してくれたらしい。

「ありがとうございます。それと、さっきはすみませんでした。でも、俺はファムさんならどんな服を着ても可愛いと思ったのは事実です。会話が面倒になって適当に返事をしたわけじゃないです。口下手ですみません」

 外に居るファムさんにそう伝えると物が落ちる音がする。

「大丈夫ですか、ファムさん」

 そう声を掛けるとファムさんは驚いたような声で

「ひゃい! だいじょうびです!」

 明らかに噛んでいたと思うけどファムさんが大丈夫というのだから大丈夫なんだろう。

風呂場から出て、ファムさんが用意してくれた服に着替えて食堂に行くと緑のワンピースに着替えたファムさんが待っていた。

「カッコイイです。シグルドさん!」

 そういってファムさんが駆け寄ってくる。

「服のことは、いまいち分からないや……。今度からファムさんに任しちゃってもいい?」

 そういうと嬉しそうに頷いて

「街に行ったらシグルドさんに似合う服もいくつか買ってきましょう」

 と言って、何故か気合が入っていた。


「結構大きな街なんですね」

 屋敷から出て、街にむかうこと5分、中心街と呼ばれ、市場が開かれている。

「ファム様、おはようございます」

 道行く人達からファムさんは、挨拶をされている。

「人気者だね、ファムさん」

 逆に俺は、道行く人達に睨まれてしまう。

「ここです! ここの服屋さん、最近新しく出来て気になっていたんです!」

 そういってファムさんは服屋に入っていく。

「いらっしゃいませ……。魔王様の娘様じゃないですか! ようこそお越しくださいました! さあさあ、こちらへどうぞ!」

 そういって店の奥に案内しているので、俺もファムさんの後を追って行こうとすると従業員に止められてしまう。

「人に売る商品は、こちらにはございません。帰ってください」

 そういって従業員が俺を追い出そうとしてくる。

「ファムさん、俺は店の中に居てはいけないみたいなので店の外で待ってますね」

 店の奥に行こうとするファムさんに声を掛けると、俺が追い出されそうになっているのに気がついたのか、こちらにやって来る。


「この人は私の旦那様です! そんなことをするならいいです、私も帰ります!」

 そういってファムさんは頬を膨らまし従業員を睨みつけて、俺の手を取り店の外に行く。「ちょっ、ファムさん! ファムさんだけでも見てくればよかったじゃないですか」

 そういってファムさんを見つめると彼女は頬を膨らまして

「あんなお店に入る必要はありません! 種族が違くて、戦争をしていたからって……。いがみ合っていたら、何も生まれません! 今は、いがみ合っている場合じゃないんです。手を取り合わなくちゃいけないのをどうして分からないんでしょう?」

 ファムさんは頬を膨らませ怒りを露にして、俺の手を繋ぎながら道をズンズンと進んで行く。

「大丈夫だよ、俺は気にしてないから……。それより、今は何処にむかっているの?」

 そういって彼女の隣に行くと、彼女は笑いながら人差し指を立てて口元に添えて

「秘密です」

 と言って嬉しそうにしている。


 道をしばらく行って裏路地に入ると目的のお店に着いた。

「私の行きつけの古着屋さんです♪ 可愛いお洋服がいっぱい取り揃えているんです!」

 店の中に入ると上半身が女性で下半身が蛇のラミアが出迎えてくる。

「いらっしゃいませ。あらっ、ファムちゃんじゃない♪」

 そういってラミアの女性がこちらに近寄ってくる。

「こんにちは、今日は旦那様に似合う服を探しにきたんです」

 ファムさんは、こちらにやって来たラミアに俺のことを紹介する。

「あらあら、魔王様は人間の男性と結婚するのを許してくれたの?」

 そういってラミアは、俺のことを見つめてくる。

「お父様に認めてもらっています。今日は、そんな旦那様に似合うお洋服を探そうということになって良いですよね?」

 ファムさんはそう尋ねると俺の腕に抱きついてくる。

「まったく、見せつけてくれるじゃないか♪ 大丈夫だよ。その代わり、いっぱい買っていってちょうだい♪」

そういってラミアの店員さんは店の奥に戻っていった。

「それじゃあ、さっそくお洋服を選びましょう」

 俺の手を握ったまま、お店の服を俺の胸に当てて選び始める。


「こんなのはどうでしょう?」

 そういってファムさんは彼女が選んだ服を着た俺をラミアに見せて、服の意見を貰っている。

「うーん、私は、もうちょっとパンクなファッションのほうがいいかなぁー」

 ラミアは、そういってレザーパンツを持ってくる。

「これを俺が着るの?」

 そう尋ねるとファムさんは目を輝かせながら頷いて、見つめてくる。

「分かったよ……。着てみるけど似合わないと思うよ」

 渋々、渡されたレザーパンツとジャケットを試着する。


「着たよ」

 そういって試着室から出るとラミアとファムさんは、しきりに頷いている。

「えっと……、どうかな?」

 二人に意見を求めると二人共頷いて親指を立てている。

「似合っているんですけど、私はパンクな服装よりカジュアルで落ち着いた服装の方が似合っていると思います」

 そういって今度はチェック柄のシャツとカーキー色のチノパンを持ってくる。

「着るの?」

 ラミアとファムさんは、嬉しそうに頷いている……。俺、着せ替え人形にさせられてないか?

 疑問に思いつつも、試着室で渡された服に着替える。

本当に似合っているのか? 服には興味が無いから着られれば何でもいいのだが、やっぱり喜んでもらえるほうが嬉しい。


「うわっ、見違えるほどイケメンになったじゃん! さすがファムさんですね! 旦那さんのことよく分かっていますね!」

 ラミアの店員がそういうとファムさんは嬉しそうに胸を張っている……。今、気づいたんだけどファムさんって張るほどの胸、無いよね……。

「そうでしょ♪ よしっ、それじゃあ旦那様が着てる服は買って帰ります。いくらですかね?」

 そういって会計を始める。

「俺が着るものだからお金は俺が払うよ」

 俺は財布を取り出そうと服を調べるが財布が無い。

「大丈夫ですよ、というか旦那様の財産と武具はクズ王に接収されてしまって、旦那様は無一文ですよ……」

 おうっ……、マジか……。どうりで聖剣グラムや俺が着ていた阿修羅の鎧が見当たらなかったんだ……。


「ありがとうございました」

 結局ファムさんに服を買ってもらってしまった……。

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