ある旅人の手記

木耳ちゅうたろう

王国を蝕む光

 あなたは巷で話題の奇跡の薬エリクサーという麻薬を知っているだろうか。高い依存性を持つが、一度吸うぐらいでは生活には全く支障をきたさないために瞬く間に街に広がった悪魔の薬だ。この薬の効用は死んだ想い人に会えるというものだ。戦争で死んでしまった婚約者フィアンセや長年連れ添ったが先に天国に向かった妻、病気でなくなった幼馴染。こういったどれだけ会いたくてももう会うことのできない人物と30秒だけ会うことができる悲哀の薬。


 どれだけ心の強い人でも家族や友人、恋人のためなら廃人になってしまう。しかし、それは唯の淡い幻想なのだ。30秒という短い時間だけの脳の錯覚。だと分かっていても人々は奇跡の薬エリクサーをやめられない。


 最初は、小さな村の小さな儀式で使われていた薬草だった。結婚式に親を亡くした花嫁が吸うことによって両親からの祝言を聞ける。そんな小さな幸せを得るための些細な天からの贈り物だった。しかし、それに目を付けた商人が悪どかった。それに依存性物質を混ぜることによって誰も抜け出すことのできない悪魔の麻薬を作り出してしまったのだ……


 人の欲は恐ろしいものだ。弱みに付け込み良薬を与えるふりをしながら、裏で金づるとしか思っていないのだから。民衆は、もう一度あの人に逢いたいと願い、希望を求めてこの薬に巡り会う。その希望を手にした者はもう人には戻れない。思考が停止し、嗜好し、最終的には、薬を手に入れるために奴隷に落とされる。


 そして、麻薬商は平民から金を毟り取り、奴隷商に売り渡す。奴隷商はな平民に安価に売り捌き儲ける。平民達は安堵する。俺じゃなくて良かったと。それから歓喜する良い玩具が安く手に入った。と


 男達は、性奴隷として若い女体を貪り、女性達は奴隷を痛めつけて優越感に浸る。麻薬という腐った鎖で括り付け平民達は俺はこうはならないと思い、見下す。それを大金を手に入れた奴隷商や薬物商達は、貧乏人と嘲笑う。上納金を得た貴族は、その商人をも見下し、今日も大金を湯水のように使っていく。そして、経済が回って王族の肥やしとなる。そして、王族達は紅茶片手に呑気に考える。何故この国は活気づかないのだろうか?


 この世には聖人なんかいない。いるのは、金に困った貧乏人と金のことしか考えない金持ち、自分のことしか考えない夢追いし若者。そして、奴隷.........


 このことは何があっても変わらない理。なぜかって?だって奇跡なんて存在しないんだから


 


 

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ある旅人の手記 木耳ちゅうたろう @kikuragetyuutarou

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